▲中国国防省の呉謙報道官は3月27日の定例会見で、何衛東・中央軍事委副主席の粛清説について、「知っていることはない」と答えた/中国国防省ウェブサイト

 中国軍ナンバー2の何衛東・中央軍事委員会副主席(68)が3月11日の全国人民代表大会(全人代・国会に相当)閉幕後、公の場から姿を消し、粛清説が流れています。「軍事委員で政治工作部主任である苗華上将が昨年11月、規律違反で停職状態にあり調査を受けている」という発表があってから5カ月、中国軍の最高指導機関である中央軍事委で再び事件が起きました。

【写真】習主席から上将昇進の辞令を受け取る何衛東・東部戦区司令員(2019年12月)

 何氏は張又侠副主席とともに習主席を補佐する中国軍の最高幹部です。共産党の最高指導部である中央政治局を構成する政治局員24人の一員でもあります。粛清説が事実ならば、1967年の賀竜氏以来初めて現役軍人の軍事委副主席が粛清されることになります。専門家の間では腐敗問題や軍内での派閥形成などが粛清の原因として取り沙汰されています。

 何氏は台湾侵攻作戦を担当する東部戦区司令員を歴任しました。李尚福前国防相、秦剛前外相、苗華軍事委員と並び、習主席が異例の抜てきを行った人物です。最側近の相次ぐ落馬は習主席自身にも大きな政治的打撃になるという分析が聞かれます。

■全人代閉幕直後に逮捕説

 何氏の粛清説は3月中旬からソーシャルメディアで流れていましたが、真偽の確認は容易ではありませんでした。台湾海峡封鎖演習の指揮や病気療養などで公の場に出られないのではないかとする見方もありました。しかし、1カ月以上も動静が伝えられず、粛清説が強まっています。

 何氏は3月中旬から主な政治行事に出席していません。3月14日に北京で開かれた反国家分裂法20周年座談会に姿を見せず、中国軍首脳が一斉に参加した4月2日の植樹イベントにも出席しませんでした。4月8日に習主席が開いた中央周辺工作会議にも欠席しました。政治局員で欠席したのは何氏だけでした。

 英フィナンシャル・タイムズは4月11日、消息筋の話として、「何氏は数週間前に軍事委副主席を解任され、汚職の疑いで調査を受けている」と報じました。米ワシントン・タイムズも3月25日、米国防総省高官の話として「何氏が粛清された」と伝えました。

■国防部報道官、否定せず

 中国政府の公式発表はありませんが、欧米や台湾の専門家は、何氏の身辺に何か起きたとみています。李尚福前国防相も2023年8月から50日間、公の場に登場しなかった後、10月末に解任が伝えられました。

 中国国防省の呉謙報道官が3月27日、何氏の粛清説に関する外国記者の質問に対し、「知っていることはない」と答えたのも奇妙でした。何氏は昨年11月、董軍国防相が汚職の疑いで調査を受けているというフィナンシャル・タイムズの報道があった際、「完全なねつ造であり中傷だ」と非難しました。呉報道官が強い口調で否定しなかったことから、粛清は事実である可能性が高いとみられています。李尚福氏が行方不明になった際も、中国外務省報道官は「知らない」と答えています。

 2013年の習主席就任以来、粛清された軍最高幹部は40人を超えています。直近の2年を見ても、苗華・政治工作部主任、魏鳳和、李尚福の両国防相長、李玉超ロケット軍司令員らが粛清されました。しかし、何氏は現役の軍部ナンバー2であり、共産党政治局員という点で地位が異なります。習主席は2014年の反腐敗運動当時、江沢民元主席の人脈である徐才厚、郭伯雄の両元軍事委副主席を粛清しましたが、両氏とも現職ではありませんでした。

■「派閥形成、情実人事で習主席の信任失う」

 何氏粛清の理由としては汚職問題が挙げられます。中央軍事委副主席2人のうち、張又侠氏は作戦を統括し、何氏は人事と政治工作を担当しています。中国軍には指揮官と対等な地位でけん制する政治委員がいます。軍の人事管理、党組織の建設、思想教育などを統括します。その頂点にいる人物がまさに何氏です。軍幹部の人事異動と昇進が彼の手にかかっています。中華圏のソーシャルメディアでは「何氏が3月11日、全人代閉幕直後に逮捕され、北京市、上海市、江蘇省などに保有している不動産の購入資金の出所などについて調査を受けている」との説が流れました。

 何氏は習主席が長く務めた福建省の第31集団軍出身で、福建幇(福建閥)の一員です。習主席は2023年に政権3期目をスタートさせ、台湾海峡を担当する東部戦区司令員出身の何氏を軍事委副主席兼政治局員に抜てきしました。党中央委員の身分でもなかった何氏を飛び級で昇進させ、党最高指導部の一員に引き上げました。念願の台湾侵攻を実現するための布石だとする分析もありました。

 何氏が東部戦区や第31集団軍を中心に派閥をつくったことが問題になったのではないかとする見方もあります。何氏が参謀長や副司令員を務めた第31集団軍は、福建省厦門(アモイ)に司令部を置き、東部戦区傘下の部隊です。去年粛清された苗華氏もこの部隊で政治部主任を務めました。今年3月、政協委員の資格を失い、粛清説が流れている唐勇・中央軍事規律検査委副書記も東部戦区出身です。アメリカの外交安保シンクタンク、ジェームズタウン財団は「何氏は人事管理と昇進人事の推薦過程で論議が少なくなかった」とし、「東部戦区出身者が分派を形成し、情実人事を行っていた事実が明らかになり、習主席の信任を失ったのだろう」と指摘しました。台湾侵攻を控え、軍の現代化と人材発掘のために大抜てきした側近が軍内派閥づくりに没頭すると、習主席の怒りを買ったのです。

崔有植(チェ・ユシク)記者

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