▲イラスト=キム・ソンギュ

 韓国国内で中国人が韓国軍部隊などの写真や動画を無断で撮影する事件が昨年6月からこれまで11件発生した。韓国の情報機関である国家情報院が4月30日に国会情報委員会に報告した。国家情報院によると、中国人が撮影したのは韓国軍基地、空港・港湾、国家情報院など軍事的に重要な施設や国の主要施設に集中しており、撮影者は観光客など一時的な来韓者や留学生がほとんどだが、中には未成年の高校生もいたという。撮影目的は「旅行記録」などと主張しているが、軍事基地法が適用される境界線の外から高性能カメラや無線機などを使って撮影を行うなど、韓国の法律を回避する意図が多分にあると国家情報院は分析している。

【表】スパイ罪適用拡大に向けた韓国国会での議論

 ある中国人グループは昨年6月、釜山の海軍作戦司令部に停泊していた米空母をドローンで撮影し、また先月には父親が中国公安(警察)だという10代を含む2人の中国人が京畿道水原市の空軍基地や烏山の米空軍基地で戦闘機離着陸の様子をひそかに撮影し、警察に立件された。このようにスパイと疑われる中国人の活動が相次いでいるが、その多くは嫌疑なしとして厳重注意で釈放されており、まともな処罰は行われていない。烏山空軍基地を撮影した中国人グループは釈放から2日後の23日に再び韓国軍基地を撮影し摘発された。一連の問題について韓国軍関係者は「韓米の空軍基地での活動内容を記録し、データベース化している可能性が高いとにらんでいる」とコメントした。

 韓国軍と在韓米軍に関する情報を収集するスパイ容疑であることは明白だが、現状では法律に基づいて彼らを「スパイ罪」で処罰することはできない。その理由は現行のスパイ罪が「敵国(北朝鮮)」のみを対象としているからだ。このスパイ法の穴を突き、法律の網をくぐり抜けスパイ行為を繰り返し行った場合であっても、容疑者を処罰するのは難しいという。

 また中国に取り込まれスパイ行為に加担した韓国人もスパイ罪で処罰できないのが現状だ。中国の情報当局に取り込まれ、韓国軍の「ブラック要員(身分を偽装して活動する韓国軍関係者)」の個人情報など韓国軍の機密を約7年にわたり中国に提供した韓国軍情報司令部の担当者A(50)は今年1月、軍刑法上の一般利敵容疑などで懲役20年の実刑が宣告された。初動捜査を担当した韓国軍防諜(ぼうちょう)司令部はAにスパイ罪を適用した上で軍検察に送ったが、軍検察はスパイ罪を適用しなかった。北朝鮮との直接の関係を立証するのが難しかったからだ。韓国軍では「ブラック要員の身元を売り渡した人間でさえスパイ罪で処罰できないなら、スパイ法は何のためにあるのか」との声が相次いでいる。また2018年に中国と日本に軍事機密を提供する見返りに現金を受け取った別の韓国軍関係者も同様で、スパイ罪ではなく軍事機密漏えい容疑で懲役4年の実刑判決が昨年下された。スパイ罪は7年以上の懲役あるいは最高で死刑まで可能だが、軍事機密漏えいは10年以下の懲役などスパイ罪に比べて全体的に処罰は軽い。

 共に民主党と国民の力は昨年、刑法第98条のスパイ罪適用範囲を「敵国」から「外国あるいはこれに準ずる団体」に拡大する法改正を推進した。国民の力は法改正を党の方針として年内の成立を目指した。共に民主党も当初は反対せず、朴善源(パク・ソンウォン)議員、姜由楨(カン・ユジョン)議員、魏聖洛(ウィ・ソンラク)議員らが法律の改正案をそれぞれ提出し、昨年11月には刑法改正案が国会法制司法委員会の法案審査小委員会を通過した。

 ところがこの改正案は法制司法委員会全体会議で承認されなかった。全体会議への上程を前に共に民主党が突然反対に回ったからだ。共に民主党は「公聴会を開いて意見を聞きたい」として上程を先送りしたが、実際はスパイ罪適用拡大の案について報告を受けた党執行部の一部から強い反対意見が出たという。その後12月3日の戒厳令によりこの問題の協議は中断している。

 国家情報院は同日、国会情報委員会の非公開の協議で「スパイ法改正により、北朝鮮だけでなく他国が韓国の産業経済あるいは軍事・安全保障に関する国家機密を奪い、探知・獲得する行為への対策としてスパイ法の改正が必要だ」と強く訴えたという。米国、日本、中国などでは敵国はもちろん、外国のために行ったスパイ行為も処罰する法律がある。今年5月に中国企業で勤務していた現地在住の韓国人が半導体関連情報を韓国に流出させた容疑(反スパイ法)で中国当局に身柄を拘束される事件も発生した。

 淑明女子大学の南成旭(ナム・ソンウク)碩座(せきざ)教授=寄付金によって研究活動を行えるように大学の指定を受けた教授=は本紙の電話取材に「経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国でスパイ罪適用を敵国だけに限定している国は大韓民国だけだ」「韓国が『スパイ天国』となるのを防ぐには左派・右派にかかわらず早急に法改正に取り組むべきだ」と指摘した。

ヤン・ジホ記者、パク・サンギ記者

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