▲イラスト=UTOIMAGE

 「米トランプ政権は為替相場にまで介入し、台湾企業に大きな被害を与えようとしている。ところで、政府は何をしているのか。トランプを擁護してばかりだ」

 今月8日、台湾・台北市に住むYさん(50代女性)は、トランプ米大統領が今年1月に就任後に繰り広げている関税戦争で台湾が特に大きな被害を受けている印象があると話した。トランプ大統領は「強いドル」が米国の輸出企業にとって不利で、貿易収支を悪化させる要因だと主張しており、最近台湾ドルが急騰し、台湾では大混乱が起きた。これについて、多くの市民は事実上何の対応も取らない頼清徳政権に不満を表明している。昨年就任した頼清徳総統は、民主進歩党(民進党)所属で親米と評される。Yさんは「主権を持つ政府として、米国と堂々と交渉する姿が見たいだけだ」と話した。

【写真】台湾紙中国時報の1面…見出しに「韓国中央銀行総裁『米政府がアジア諸国に圧力をかけている』と認めた」と書かれている

 親米傾向の頼総統にとって、トランプ大統領の「何もはばからない米国」は支持率を低下させる悪材料になっている。民進党が米国に過度に友好的で屈服していると受け止められ、非難の世論に火がついたのだ。野党国民党はそんな隙を狙って「米政府が為替相場に介入しており、民進党がそれを容認している」という主張を展開中だ。

 混乱が広がる中、最近台湾では韓国銀行の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁が「米国にまともに言うべきことを言った」と評価されたことがあった。台湾有力紙の中国時報、聯合報は台湾ドル相場が急騰した7日、それぞれ1面、3面で李総裁の発言を取り上げた。中国時報は「韓国中央銀行総裁が『米政府がアジア諸国に圧力を加えている』と認めた」という見出しでトップ記事で伝えた。これは李総裁が5日の記者懇談会でアジア通貨高の背景について、「米国が個別の国々に会って為替相場の話をし、米中交渉が妥結する確率が高まったためだ」と言及したことを受けた報道だった。韓国ではこれといって話題にはならなかったが、台湾では「トランプに対抗して真実を語った愛国的発言」として持ち上げられ、話題をさらったのだ。この記事には「台湾政府は韓国と違って卑屈だ」というコメントが多く付いた。

 李総裁のちょっとした発言が台湾でこれほど話題になったのは、台湾でトランプ政権による反米感情がますます高まっていることを示している。先月末、インターネットメディア「美麗島電子報」が行った世論調査では、頼総統に「満足している」との回答が初めて「不満」という回答を下回った。トランプ政権による関税戦争が本格化する前までは、頼総統に「満足している」との回答は55.6%に達していた。韓銀の李総裁の発言が台湾政府に対する不満をたきつけるような兆しが見えると、台湾外交部は「韓国中央銀行総裁が言及したことを一部の台湾メディアが拡大解釈した」と反論する報道資料まで出し、収拾に乗り出した。

 こうした世論の流れを巡っては、野党が意図的に誘発した政治的な動きだと懸念する見方もある。国立成功大学政治学科の王宏仁教授は、最近の反米世論に関する本紙の質問に対し、「米国が台湾を裏切ったという感情的反応は、台湾と米国のパートナーシップに対する信頼を低下させようとする中国の『統一戦線』戦略に直接一致する。短期の経済的変動を理由に台米関係を弱体化させることは、自滅的な結果をもたらす恐れがある」と指摘した。

台北=リュ・ジェミン特派員

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