韓中関係
李在明シエシエ発言に米識者「台湾と韓国の脅威を決して分けて考えるべきではない」 ワシントンで専門家8人にインタビュー
「李在明(イ・ジェミョン)候補は数年前まで韓国のバーニー・サンダース(上院議員)と呼ばれていましたが、今はドナルド・トランプに匹敵する人物とみられるようになりました。幾つかの公約には信頼性に関する問題があるため、彼が実際にいかなる政策を展開するかは見守らねばなりません」
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ワシントンのあるシンクタンク主催で開催されたイベントでパネリストの一人がこのように述べた。一般の米国人からすればトランプ大統領と進歩系(リベラル)のサンダース議員は全く相容れない。来月3日の韓国大統領選挙が近づく中、米国でもインド太平洋地域におけるトップ・ティア(最上位)同盟国である韓国の指導者が誰になるかに関心が高まっている。とりわけ複数の世論調査でトップを走る李在明候補への関心が特に高い。これは李在明候補のこれまでの政治経歴がほぼ地方自治体でのもので、ワシントンに慣れた人物ではないことも影響している。李在明候補がワシントンを訪れたのは城南市長だった2016年が最後だった。
韓半島問題を長い間研究してきたワシントンのいわゆる「コリア・ウオッチャー」たちは李在明候補の外交・安全保障政策における不確実性をたびたび指摘する。昨年12月に尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領に対して国会が最初に弾劾訴追の手続きを行った際、その弾劾理由に「北朝鮮・中国・ロシアを敵対視する外交と日本中心の奇異な外交」という文言があった。また翌年1月のワシントン・ポスト紙とのインタビューで李在明候補は「日本の国防力強化は脅威にはならない」と全く違った発言を行った。さらに今月13日に大邱で行った遊説で李在明候補が「中国にもシエシエ(謝謝=ありがとう)、台湾にもシエシエ、他国とも仲良く過ごせばよい。台湾と中国がけんかしようがどうしようが、われわれと何の関係があるのか」「(私は)間違ったことを言ったか」と述べた事実も伝えられ、これらが今大きな話題になっているのだ。
14日に本紙がインタビューを行った外交・安全保障の専門家8人は「韓国の大物政治家であり、大統領候補でもある人物が中国と台湾の対立について『韓国と無関係』と述べたことには驚いた」「中国が台湾で力による現状変更に乗り出した場合、韓国の経済と安全保障に災害的な結果をもたらす恐れがある。韓国と台湾の安全保障の脅威は決して分けて考えることはできない」と指摘した。韓半島問題が専門のブルッキングス研究所のアンドルー・ヨー上級研究員は「貿易や製造業への影響を考えた場合、台湾海峡の安定と貿易の自由な流れは韓国にとって非常に重要だ」「『われわれと何の関係があるのか』という発言は韓国がこの地域での有事に無関心という印象を与える」などとした上で「台湾海峡の平和と安定は(李在明)候補者の発言のように当然保障されるわけではない。次の韓国政府に対しては、米国やインド太平洋地域のパートナーたちと一層緊密に協力し、地域の安定確保に向け努力することを希望する」と述べた。
第1次トランプ政権で国防次官補として米朝実務協議に深く関与したインド太平洋安全保障研究所(IIPS)のランドル・シュライバー代表は「(台湾海峡問題に)韓国がどう関与するかは主権に属する政治家たちの権限だ」としながらも「紛争が起これば韓国の安全保障と経済は間違いなくマイナスの影響を受けるだろう。半導体サプライチェーンがストップするだけでも世界経済に深刻な影響が及ぶ恐れがある」と警告した。アジア太平洋戦略センター(APS)のデイビッド・マクスウェル副会長は「台湾有事が韓国に莫大(ばくだい)な影響を及ぼすのは間違いないし、その逆も同じだ」「韓国と米国をはじめとする同盟諸国は地域の安全保障に対して総合的にアプローチしなければならない。台湾と韓国の脅威を決して分けて考えるべきではない」と説明した。またその一方で「韓国が周辺国と良好な関係を維持するため努力することは賢明だが、ルールに基づく国際秩序を守るというアイデンティティーを維持することが最も重要だ」ともくぎを刺した。ランド研究所のブルース・ベネット防衛上級研究員は「私が候補者であれば、台湾海峡問題についてはもっと慎重に語っただろう」「中国が台湾を支配すれば韓国に圧力を加えることができ、その動機もさらに強まるはずだ。地域やグローバル経済の支配力を強化するため韓国に対して人工知能(AI)や半導体製造など特定の事業を放棄するよう要求することもできる」との考えを示した。
ヘリテージ財団アジア研究センターのブルース・クリングナー上級研究員は「台湾は韓国にとって戦略的に非常に重要な地域だ。そのため中国が台湾に対して行動を起こせば、災害的な結果をもたらすだろう」「韓国は有事における役割を定めることに消極的で、あるいは反対する態度を示している。韓国が台湾を守る連合に参加すればリスクは当然あるだろうが、参加しない場合もコストがかかってくるだろう」と指摘した。その上でクリングナー氏は「韓国は70年前に(北朝鮮と中国の)攻撃から国連により守られ、主権が保障されたからこそ今の繁栄を手にすることができた」「他の民主主義国家を守ることをためらうのであれば、米国との同盟関係にも深刻な影響が及ぶ恐れがある」と予想した。米国務省で東アジア太平洋(EAP)担当国務副次官補代理を務めたエバンス・リビア氏は「中国と台湾の対立はこの地域における安全保障上の役割を変化させるのはもちろん、韓国と唯一条約を締結している米国が介入するであろうより幅広い規模の対立に変容するかもしれない」「これについて韓国の大物政治家である大統領候補が『われわれとは関係ない』と主張したことには驚いた」と述べた。
トランプ政権発足後、米政界や韓半島問題に詳しい識者の間では「在韓米軍の戦略的柔軟性」に関するシナリオがたびたび語られるようになった。例えばMAGA(米国を再び偉大に)を掲げるトランプ政権で国防政策の立案とその実行に深く関与するとみられる米国防総省のエルブリッジ・コルビー次官も在韓米軍の機能について「『北朝鮮抑止』から『中国けん制』に転換すべきだ」と主張する代表的な人物だ。国防総省は新たな国家防衛戦略(NDS)策定に着手したが、シュライバー氏は「米中の覇権争いを巡って韓米両国が協力するさまざまな方法について検討が行われるだろう」と予想し、同盟国としての韓国の負担が在韓米軍駐留経費の負担にとどまらないとの見方を示している。韓国政府関係者が米国側から「台湾海峡有事に韓国はいかなる役割を果たすのか」と質問されるケースも過去に比べて多くなっている。ハドソン研究所のパトリック・クローニン・アジア太平洋安全保障部長は「在韓米軍を含む米軍は地域と世界の安定を害する攻撃に対応するため、引き続き準備態勢を維持している」「次の韓国大統領は韓国軍が同時多発的な危機に対処する準備を整えるために努力しなければならない」と指摘した。
ワシントン=金隠仲(キム・ウンジュン)記者