オーストラリアのレアアース企業ライナスは5月16日、同社のマレーシア工場でレアアースの一種であるジスプロシウムの生産に成功したと発表しました。6月には同じくレアアースのテルビウムの生産も行うようです。永久磁石の性能を向上させるジスプロシウムはこれまで100％中国で生産されてきましたが、ライナスは「今回初めて中国以外での商業生産が実現した」と説明しました。中国のレアアース独占体制への反撃が始まったのです。

【写真】豪マウントウェルド鉱山と米マウンテンパス鉱山

　レアアースとは化学的、電気的に独自の特性を持つ17種類の元素のことで、ハイテク産業では必須の素材です。うち質量が軽い7種類は軽希土類、重い10種類は重希土類に分類されています。重希土類は国防や航空など先端産業に必須のため、軽希土類よりも重要視されています。重希土類については中国が世界の99％以上のシェアを確保する独占状態が続いてきました。

　中国はトランプ関税に対抗するため、今年4月4日に7種類のレアアースに対する輸出規制を行いましたが、うち6種はジスプロシウムを含む重希土類でした。米国にとっての最大の弱みを突いた形です。トランプ大統領がグリーンランドの買収に意欲を示し、またウクライナとの鉱物協定を締結した理由も重希土類を確保するためでした。

■「国防・航空用の重希土類は99％が中国の生産」

　ライナスは中国以外では世界最大のレアアース採掘会社と言えるでしょう。オーストラリア西部のマウントウェルド鉱山を保有していますが、この鉱山で採掘したレアアース鉱石についてオーストラリアで1次精錬を行い、マレーシアの精錬工場でより純度の高いレアアースとして生産しています。ライナスはこれまで永久磁石に使われる軽希土類のネオジムを主に生産してきましたが、中国による重希土類武器化に対抗するためジスプロシウムの生産も開始しました。ライナスのアマンダ・ラケイズ最高経営責任者（CEO）は「世界のレアアース・サプライチェーンの弾力性を高め、顧客に中国以外で製品を購入できる選択肢を提供する有意義な第一歩だ」とコメントしました。

　レアアース埋蔵量は中国が4400万トンと世界で最も多いとされていますが、ブラジル（2100万トン）、インド（690万トン）、オーストラリア（570万トン）、ベトナム（350万トン）なども埋蔵量は決して少ないわけではありません。米国も190万トンとかなりの量が埋蔵されています。それでも中国が世界のレアアース市場の70％以上を占める理由は、精製過程が複雑なことと環境を大きく汚染させることにあります。鉱石にわずかに含まれているレアアースを分離するには毒性の強い化学物質を使うため、水や土壌が汚染される上に放射性廃棄物も出るからです。

　米国はかつては世界最大のレアアース生産国でしたが、これら環境汚染問題を理由に今は採掘した鉱石を全て中国に送って精製しており、その過程で中国のレアアース独占体制が形成されました。米国は昨年8000トンのレアアース関連製品を輸入しましたが、うち70％は中国からのものでした。

■F35戦闘機1機に408キログラムのレアアース

　今回ライナスが生産に成功したジスプロシウムは電気自動車用モーターや風力発電用タービンなどに使われる永久磁石の性能を高め、とりわけ高温でも磁石の性能を維持するのに大きな役割を果たします。テルビウムは重希土類元素では最も高価で、偽造防止インクなど特殊な蛍光体に使われるそうです。中国は航空機部品の合金用に使われるスカンジウム、レーザー製造に使われるイットリウムなども輸出規制リストに含めました。

　中国によるレアアース輸出規制で最も大きな打撃を受ける分野は米国の防衛産業です。米戦略国際問題研究所（CSIS）の資料によると、F35戦闘機1機の製造に使われるレアアースは408キログラムに達するそうです。大型駆逐艦には2.4トン、攻撃型原子力潜水艦には4.2トンのレアアースが必要です。

　米国は2019年の米中貿易対立の際、中国がレアアース輸出規制を行ったため独自のレアアース・サプライチェーン構築を開始しました。2022年にはレアアースを戦略物資に指定し、MPマテリアルズなどに補助金を出して製造工場建設を後押ししました。カリフォルニア州マウンテンパスなどで採掘されたレアアース鉱石を中国に送らず、米国国内で精製し最終製品を作り上げるというものです。MPマテリアルズは今年末に年間1000トンのネオジム永久磁石の生産体制を整えるようです。

■ライナスは米テキサス州にも工場建設

　米国防総省も2020年から4億3900万ドル（約627億円）を投じレアアース・サプライチェーン構築を後押ししていますが、その中心となる企業の一つが今回ジスプロシウムの生産に成功したライナスです。米国防総省はライナスがテキサス州に建設中の重希土類精製工場に2億5800万ドル（約368億円）を支援し、この工場は来年から生産を開始します。また米国のUSAレアアース社も今年1月に純度99.1％のジスプロシウム酸化物生産に成功し、大量生産工程の開発をすでに進めています。

　オーストラリアは現在北西部のブラウン・レンジ・レアアース鉱山の開発を進めていますが、ここにはジスプロシウムを年間279トン生産できる重希土類が埋蔵されているそうです。ライナスは現時点では生産量が中国よりもはるかに少なく、米国企業が大量生産体制に入るにもまだかなりの時間がかかります。また環境汚染を防ぐため中国よりも製造原価はさらに高くなります。

　それでもライナスが今回重希土類の生産に成功したことで、西側諸国も中国のレアアース武器化に対抗できる確実なカードを手にしました。中国がレアアースを武器に米国と欧州に圧力をかけるのは簡単ではなさそうです。

崔有植（チェ・ユシク）記者