▲グラフィック=キム・ソンギュ

 李在明(イ・ジェミョン)大統領が、下着大手サンバンウルによる違法対北送金事件で自分の弁護を担当した金熙洙(キム・ヒス)弁護士=65歳=を国家情報院(韓国の情報機関。国情院)企画調整室長に任命し、物議を醸している。国情院企画調整室長は、国情院の人事や組織・予算について責任を有する中心的なポストだ。

【写真】企画調整室長に任命された金熙洙弁護士

 サンバンウル対北送金は、2019年に当時の李華泳(イ・ファヨン)京畿道平和副知事が、同じく当時の李在明京畿道知事の訪朝費用などとして計800万ドル(現在のレートで約11億5000万円。以下同じ)をキム・ソンテ元サンバンウル会長に代納させた事件だ。この事件で李・元副知事は懲役7年8カ月の刑が確定した。李大統領もこの事件で「第三者収賄」の容疑で起訴されたが、大統領就任により裁判は中断状態になっている。

 先に行われた李華泳・元副知事の裁判の争点は、対北送金800万ドルの「性格」だった。これについて李・元副知事側は「サンバンウルが系列企業の株価操作のために対北送金したもの」などの主張を行った。逆に検察側では「当時、京畿道が出すべき北朝鮮スマートファーム事業費500万ドル(約7億2000万円)、京畿道知事訪朝費用300万ドル(約4億3000万円)をサンバンウルが代わりに負担したもの」だとした。

 双方は、2020年1月に国情院の秘密エージェントが作ったという国情院の内部文書を巡っても攻防を繰り広げた。この文書は、国情院のエージェントが北朝鮮関連団体の代表などと接触して作成したもので、サンバンウルの対北事業に関する内容が含まれていた。文書の一部には「対北事業についての期待感で最近サンバンウル系列企業の株価が上昇しているが、これに関連して一部では、キム・ソンテ元会長の株価操作の可能性などを指摘している」という内容もある。このため、李大統領は昨年6月、裁判所に出廷して「国情院の報告書に、サンバンウルの対北事業のための送金だ、株価操作をしているという内容がある」「国情院の機密報告書が正しいのか、それとも組織暴力出身で不道徳な事業家(キム・ソンテ元会長)の言葉が正しいのか」と発言した。進歩系の与党「共に民主党」に所属する、国情院長出身の朴智元(パク・チウォン)議員も、当時フェイスブックに「国情院の文書は株価操作であって、李在明代表(当時)の訪朝費用だと言及はしなかった」と書き込んだ。

 しかし一審の裁判部は、国情院の文書について「この文献は情報提供者の話に基づいたものとみられるが、内容が具体的ではなく、国情院が(株価操作目的だったという)話の内容を検証するためにどのような努力をしたのかも明らかでない」「文献の内容と違って、サンバンウルが系列会社の株式売却など差益実現を試みた状況は無い」と判示した。国情院の文書に出てくる「株価操作目的の対北送金」という部分の信ぴょう性を認めなかったのだ。6月5日に大法院(最高裁)も、サンバンウル側が当時京畿道知事だった李大統領の訪朝費用などを北朝鮮に代納したと判断し、原審を確定させた。

 こうした事情から、金熙洙弁護士の国情院企画調整室長抜てきは法曹界の注目を集めることとなった。「2級秘密」に分類される国情院文書は、李・元副知事の裁判の過程で、デリケートな部分が削除された状態で検察に提出されたという。文書を作った国情院のエージェントが証人として出廷したときの裁判も非公開で進められた。法曹関係者らは「今回の人選は『対北送金事件の弁護人(金熙洙企画調整室長)が裁判に関連する国情院の内部情報にアクセスできるようにしてやるもの』だとの誤解を招くに十分」だとし「場合によっては利害衝突の余地がある」と指摘した。

 民主社会のための弁護士会(民弁)出身の金室長は、李大統領が京畿道知事を務めていた2020年、開放型ポストの京畿道監査官に任命された。李大統領の「対北送金事件」の弁護人としての活動は、監査官の任期を終えた後に始めた。国情院周辺では「今回の企画調整室長の人選は、李鍾奭(イ・ジョンソク)国情院長ではなく大統領室で関与した」という声も聞かれた。

 李大統領の弁護人を務めた法曹関係者が大統領室入りした例も複数ある。「対北送金事件」の弁護人出身の李泰炯(イ・テヒョン)弁護士とイ・ジャンヒョン弁護士は、それぞれ民情秘書官と法務秘書官に登用された。李大統領の公職選挙法違反事件の弁護を担当した全治永(チョン・チヨン)弁護士は公職紀綱秘書官を務めている。

キム・ヒョンウォン記者

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