裁判
「気概ある検事は一人もいなかった…」 史上初の控訴放棄に韓国検察内部から激しい反発 大庄洞事件裁判
韓国検察首脳部が大庄洞開発不正事件で控訴を断念したことについて、検察内部から激しい反発が起きている。検事の間からは、盧万錫(ノ・マンソク)検察総長権限代行と鄭鎮宇(チョン·ジンウ)ソウル中央地検長に対し、「外圧に屈服したのか。自分からひれ伏したのか」「辞表を出しても控訴すべきだった」といった批判が出ている。事件を捜査し公判を担当した検事に対しても、「職を賭して控訴を貫いた検事が一人もいなかったことが残念だ」との声がある。
【時系列で見る】「控訴放棄」に至るまでの流れ
法務研修院のパク・ヨンジン研究委員(検事長)は、今回の控訴断念が報じられると、検察首脳部に携帯メールを送り、辞任を促した。盧代行と鄭地検長、李鎮琇(イ・ジンス)法務部次官らに「法治主義の精神を崩壊させ、政権のために働き、汚辱の歴史をつくった責任を負い即刻辞任しろ。これ以上検察の先輩、一線検事に対する指揮権者として認めない」という内容の携帯メールを送ったことが9日までに明らかになった。パク委員は尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権下の2024年から全州地検長を務め、文在寅(ムン・ジェイン)元大統領の収賄事件の捜査を指揮したが、政権交代で法務研修院に左遷された。法務研修院の鄭惟美(チョン・ユミ)研究委員(検事長)も同日、盧代行に「原則も組織も後輩も守ることができないのに、ただ政権が言いなりで扉を閉めて出て行くことが目標なのか。今回の事態に責任を負うことを願う」とのメールを送ったという。
大庄洞事件の捜査を担当した大検察庁監察1課のキム・ヨンソク検事は同日、検察のイントラネットに「大検察庁の次長(盧代行)があれほど深く総合的に考慮した基準は何だったのか、中央の検事長が捜査・公判チームの作成した控訴趣旨文書を決裁しておきながら、それを覆した理由が全く理解できない」と書き込んだ上で、「検察の歴史上、一部無罪となり、巨額の追徴を命じる判決が下されなかった事件で控訴を断念した前例はあるのか」と疑問を呈した。
ある現職検事長は「検察庁を廃止すると言った時よりさらに絶望的に感じた」とした上で、「直すべきことは直そうという考えで現政権が掲げた『検察改革』には耐えられたが、今回の事案は首脳部が自らひれ伏したようなもので耐え難い」と話した。
「控訴意見を貫徹できなかった」として辞意を表明した鄭地検長にも批判があふれた。ソウル中央地検の安美賢(アン・ミヒョン)検事はフェイスブックに「検事は独立した官庁なので、厳密に言えば決裁は内部手続きにすぎない。決裁なしで裁判所に(控訴が)受理されたからといって効力が認められないわけではない」とし、大検察庁の承認とは関係なく独立的に判断すべきだったと話した。鄭地検長が専決事項として控訴を承認できたにもかかわらず、上層部の不当な指示に従ったとの趣旨だ。
この事件の捜査・公判を担当した検事に対する批判の声もあった。元次長検事の弁護士は「控訴期限を過ぎてから反発するのではなく、自分の職を賭してでも控訴しなければならなかったのではないか」と話した。元検事長の弁護士は「気概ある検事が一人もいないことのほうが残念だ。懲戒を覚悟してでも控訴状を受理させる検事が一人くらいいるべきではないか」と語った。
過去にも政治的事件などで検察首脳部と捜査チームの見解が対立することは度々あった。しかし、激論の末に捜査チームの意見が貫かれた例も少なくない。代表的なのが2020年「蔚山市長選挙介入事件」だ。 当時捜査チームは宋哲鎬(ソン・チョルホ)元蔚山市長、黄雲夏(ファン・ウンハ)元蔚山警察庁長、白元宇(ペク・ウォンウ)元青瓦台民情秘書官の3人を起訴すべきだと3回報告した。しかし、当時の李盛潤(イ・ソンユン)ソウル中央地検長(現共に民主党議員)が決裁を保留し、事実上起訴を阻止した。これに対し、当時の尹錫悦(ユン・ソンニョル)検察総長が大検察庁首脳部とソウル中央地検の捜査陣を呼んで会議を開き、起訴を決定し、事件関係者13人が裁判にかけられた。
文在寅政権初期の2017年、韓国eスポーツ協会がロッテホームショッピングなどから数億ウォンの支援を受ける過程に、当時の田炳憲(チョン・ビョンホン)青瓦台政務首席秘書官の側近が介入したとされた事件の捜査では、大検察庁首脳部とソウル中央地検の捜査陣が当時企画財政部の担当室長だった具潤哲(ク·ユンチョル)氏(現経済副首相)に出頭を求めるかどうかを巡って衝突した。大検察庁は出頭要求を取り消すよう指示したが、捜査チームの検事は「職を賭す」と言って粘り抜いた。当時検察は具氏から「田氏の電話を受けて圧力を感じ、予算を増額した」という供述を得て、田氏を起訴した。
キム・ナヨン記者、オ・ユジン記者