天安爆沈事件の主犯を受け入れた文在寅(ムン・ジェイン)政権の心理は次の二つのうち一つだろう。幻想に陥ったか、純真なのかだ。20年以上にわたり、北朝鮮にだまされてきた。ある大統領は北朝鮮には「核開発の意思はない」と言った。北朝鮮の核を「交渉用」だとかばった大統領もいた。そうやって信用して北朝鮮に送ったドル資金が核とミサイルに化けた。天安爆沈という挑発と「火の海」にするという脅迫として返ってきた。こ..
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天安爆沈事件の主犯を受け入れた文在寅(ムン・ジェイン)政権の心理は次の二つのうち一つだろう。幻想に陥ったか、純真なのかだ。20年以上にわたり、北朝鮮にだまされてきた。ある大統領は北朝鮮には「核開発の意思はない」と言った。北朝鮮の核を「交渉用」だとかばった大統領もいた。そうやって信用して北朝鮮に送ったドル資金が核とミサイルに化けた。天安爆沈という挑発と「火の海」にするという脅迫として返ってきた。これほどまでにやられておいて、まただまされようというのだ。世の中にこれほど善良な政府はなかろう。
平昌五輪開幕式の前日、文在寅大統領がペンス米副大統領と会った。昨年の訪米以来8カ月ぶりの対面だった。その間、韓米の間ではあらゆることが起きた。文大統領には解決すべき懸案が多かった。北朝鮮をめぐる調整に忙しく、同盟の溝も埋めなければならなかった。もう一つ、慌てていたのは通商分野だ。トランプ政権による通商攻勢が尋常ではなかった。夕食会の席上、文大統領が切り出した。韓国製洗濯機に対する報復を緩和してほしいと要請したのだ。当初のシナリオにはなかったことを文大統領があえて取り上げたのだ。
文大統領には計算があったようだ。ほかならない同盟国の大統領による要請だ。米国が誠意を示してくれると期待したはずだ。10日後、米国からさらに協力は爆弾が飛んできた。鉄鋼にも強硬な制裁をかける案だった。誠意を示すどころか、新たな報復が加わった。文大統領の要請が無視された格好だ。当初から通用するはずもなかった。米国からの通商の嵐に政府は手をこまぬいてきた。そうしておいて、大統領の一言だけで解決するはずもない。本当に期待していたとすればそれこそ純真だ。
その後の政府の対応はさらに焦りに満ちていた。文大統領は「堂々として決然とした」対応を宣言した。世界貿易機関(WTO)に提訴し、関税報復も辞さないとした。言葉は痛快だが、効果が上がる対策ではない。米国には痛くもかゆくもないカードを切り、真っ向から対処するのだという。それは清国の百万の軍勢の前で虚しい主戦論を叫ぶようなものだった。
政府が外の世界を見つめる視角は幻想に満ちている。正義が幻想に勝ち、善意が通じると考えている。そうでもなければ、対策もないのに「堂々として決然とした」対応などとは言えない。北朝鮮の露骨な狙いに利用されたりしなかったはずだ。しかし、現実は理想世界とは異なる。世界はフェアでもなく、正義も通じない。力と利益の論理が支配するのが国家間関係だ。国益をめぐり弱肉強食の競争が繰り広げられるジャングルに近い。こうした現実を知らない政府が国家経営をうまくやっていけるはずはない。
韓国GMが群山工場の閉鎖を発表すると、トランプ大統領がツイッターでつぶやいた。「彼ら(GM)はデトロイトに帰ってこようとしている」--。トランプ大統領は韓国の被害を米国の国益ととらえた。群山工場の閉鎖は自分のおかげだと言った。トランプ大統領は国家間関係を奪い合いのゼロサムゲームだと考えている。非情で冷酷だ。彼の見方は道徳的に非難されてしかるべきだろう。しかし、それが現実だ。韓国が米国の大統領をののしることはできるが、すげ替えることはできない。それならば、韓国が向こうに合わせ、戦略的に行動する以外にない。
トランプが貿易報復をちらつかせる目的は明らかだ。他国の企業と雇用を米国にもたらすことだ。効果は既に表れている。韓国企業の海外脱出の動きが出始めた。関税爆弾に見舞われた鉄鋼メーカーは米国に工場を移転しようとしている。家電・石油化学分野の大企業も米国への投資計画を増やした。それだけ韓国の雇用が流出することになる。米国だけではない。全ての国が企業と雇用を求め争奪戦を繰り広げている。守れなければ奪われるというジャングルの戦いだ。
ジャングルのようなグローバル競争の本質を韓国政府は理解できない。自分たちの物を守るどころか、追い出せずに焦っている。増税でコスト負担を増やし、自ら競争力を損ねている。労働改革も捨て去った。企業は既得権益勢力なので、反企業こそ公正につながると言うのだ。しかし、大企業も国外に出れば、大したことにない弱者にすぎない。企業が死闘を繰り広げているのに、政府は企業の足を引っ張っている。世の中の実情との間に壁を築いてしまっている。
文在寅政権は「善良な政府」というコンプレックスにかかったとも言われる。経済も「善良な経済」、成長も「善良な成長」を目指すというのだ。文政権にとって、善良は公正と社会の正義を意味する。労働者と弱者に対して、善良な政策のみ取ればよいと考える。
世の中に韓国だけが存在するならば、それでもよかろう。しかし、全世界で展開される国益の角逐で善良は美徳にはならない。世界のジャングルを舞台にしたゲームは精巧な国家戦略と柔軟な戦術を駆使した国が勝利する。「善良な政府」はすなわち「無能な政府」の道を歩むという告白に等しい。
朴正薫(パク・チョンフン)論説委員
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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