▲グラフィック=朝鮮デザインラボ、キム・ヨンジェ
米国のドナルド・トランプ大統領が就任前に予告した通り、パナマに対する大攻勢が始まりました。マルコ・ルビオ国務長官は2月2日、就任後最初の海外訪問国としてパナマを訪れ、ホセ・ラウル・ムリーノ大統領と会談を行い「パナマ運河に対する中国の影響力を除去しないのなら、必要な措置を取る」と圧力をかけました。
ムリーノ大統領は会談直後すぐに、中国と結んだ一帯一路協定を延長せず、早期に脱退したいと述べました。香..
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▲グラフィック=朝鮮デザインラボ、キム・ヨンジェ
米国のドナルド・トランプ大統領が就任前に予告した通り、パナマに対する大攻勢が始まりました。マルコ・ルビオ国務長官は2月2日、就任後最初の海外訪問国としてパナマを訪れ、ホセ・ラウル・ムリーノ大統領と会談を行い「パナマ運河に対する中国の影響力を除去しないのなら、必要な措置を取る」と圧力をかけました。
ムリーノ大統領は会談直後すぐに、中国と結んだ一帯一路協定を延長せず、早期に脱退したいと述べました。香港の「CKハチソン・ホールディングス」の子会社が運営している、運河両側の入り口のバルボア港とクリストバル港の運営権延長計画も破棄することを検討中だといいます。「運河を取り戻すために軍事力の使用を排除しない」というトランプ大統領の脅しに、事実上白旗を上げました。
パナマは2017年に台湾と断交して中国と国交を結び、親中の国になりました。中南米の国の中では真っ先に中国の一帯一路プロジェクトに参加しました。中国は過去8年、カネとプレゼントでパナマの主要家門に対する影響力を確保し、国有企業は数十億ドル(10億ドル=現在のレートで約1520億円。以下同じ)規模のインフラ建設プロジェクトを確保しました。
パナマ運河は、アジア・太平洋地域における有事の際、大西洋側の米海軍が出動する重要なルートで、米国に到達するアジアの物流の58%が通過する要衝の地です。こうした場所を中国が事実上コントロールする…という危機感が、今回の事態の背景ですね。ブラジル、ペルーなど中南米の他の親中諸国に向けた見せしめ、という分析もあります。
■2017年の国交樹立後、親中に変身
パナマは2017年、フアン・カルロス・バレーラ大統領の在任中に中国と急激に接近しました。バレーラ大統領は中南米の国としては最初に中国の一帯一路プロジェクトに参加し、自ら北京を訪れもしました。18年には習近平国家主席がパナマを訪れました。
その後、国有銀行を含め鉱業・通信・物流・建設などにわたっておよそ40の中国企業がパナマに進出し、50億ドル(約7600億円)以上を投資しました。首都パナマ市に孔子学院を設立し、およそ30の奨学基金も作りました。パナマの有力家門の人物を中国に招いて親中人脈も広げたといいます。
大規模なインフラ建設プロジェクトも相次いで確保しました。40億ドル(約6100億円)を要するパナマ市―ダビッド間の高速鉄道(450キロ)、10億ドル規模のガス火力発電所、アマドール半島遊覧船ターミナルや中国大使館の建設、14億ドル(約2100億円)かかる運河の第4大橋の建設などで合意が行われました。
■米軍「港など軍事的な要地の確保に乗り出している」
しかしバレーラ大統領の退任後、相当数のプロジェクトがキャンセルされました。高速鉄道プロジェクトは「既に交通網がきちんと備わっている状況で不必要な投資だ」という批判が出て、アマドール半島の中国大使館建設計画も白紙になりました。かつて米海軍が駐留していたアマドール半島に中国大使館が来ることを巡り、米国がデリケートに反応したといいます。パナマ運河を通る米海軍の艦艇を監視する哨所になるだろうと考えたのです。
パナマでは、中国がパナマを「債務のわな」に陥れようとしている、という批判が起きました。スリランカが港湾建設の過程で中国に負った莫大(ばくだい)な借金を返せず、ハンバントタ港の99年間の運営権を渡したように、パナマでも同様の試みを行ったというのです。ユークリデス・タピア(Euclides Tapia)パナマ大学国際関係学部教授は「中国がアフリカとアジアでそうしたように、パナマを『債務のわな』にはめて港湾などに対するコントロール権を確保しようとした」と述べました。
米南方軍(SOUTHCOM)は、こうした中国の動きについて追跡し続けてきました。昨年3月、ローラ・リチャードソン南方軍司令官(陸軍大将、当時)は米連邦議会下院軍事委員会の聴聞会で「表向きは平和的に見えるが、有事の際に中国軍が深水港(deep-water ports)、サイバー攻撃施設、宇宙基地などとして活用できる戦略的要地を確保しようとするもの」と表明しました。
CKハチソン・ホールディングス・グループが1997年から運営しているバルボア港とクリストバル港については、これまで懸念は大きくありませんでした。香港の富豪・李嘉誠が創業したこの会社は、香港に拠点を置く多国籍企業です。ところが2020年に中国が「保安法」の制定を通して、事実上香港を統合する中で、事情が変わりました。中国軍が必要に応じていつでも両港を軍事的に活用できる法的な根拠が整ったのです。
■「台湾断交の見返りとして1億8000万ドルの賄賂」
パナマ運河は、台湾海峡で米中が衝突した際、米国東部の支援部隊がアジア・太平洋地域へ出動するルートです。米国は、中国軍がさまざまな手段を利用して有事の際にパナマ運河をまひさせようとする危険があるとみています。エバン・エリス(Evan Ellis)米陸軍戦争大学教授は、国際放送「ドイチェ・ベレ」のインタビューで「中国が船を沈めたり電算網をかく乱したりするなどさまざまな方法で、責任を回避しつつ運河をまひさせることがあり得る」と語りました。
中国がブラックマネーでパナマ政界を買収するかもしれない、という点も懸念されています。2017年に台湾断交を決めた当時のバレーラ大統領も、中国から賄賂を受け取って私腹を肥やした―という主張があります。パナマ市市長や米州機構(OAS)大使などを歴任したギレルモ・カーズ(Guillermo Cochez)氏は最近、コロンビアのテレビ局NTN24のインタビューで「バレーラ元大統領が17年に台湾断交の見返りとして中国から1億4100万ドル(約214億円)のカネを受け取り、彼が営むラム酒メーカーは中国で3800万ドル(約58億円)規模のラム酒供給契約を確保した」と語りました。
トランプ大統領は「中国軍がパナマ運河を運営している」として軍事力投入の可能性にまで言及しました。こうした主張は、トランプ特有の誇張法で、フェイクニュースだと判明しました。しかしトランプに批判的なニューヨーク・タイムズ紙なども「トランプのうそとは無関係に、パナマ運河に対する中国の影響力は懸念される」と報じました。この問題を巡り、米国は超党派の立場であるとみえます。
崔有植(チェ・ユシク)記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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