「北に非核化の意志があるという希望的思考が政策の失敗を招く」

北核6者協議で韓国の首席代表を務めた千英宇(チョ・ヨンウ)元青瓦台外交安保首席
現場での経験と提言を書籍にして出版
「北朝鮮が核を放棄しなければ生存不可とする利害当事国の力と意志が重要だ」

 「『北朝鮮に非核化の意志がある』との判断は一つの希望的観測にすぎません。北朝鮮に善意の観点から対応する態度が過去5年間の対北朝鮮政策をおかしな方向に引っ張ったではないですか」

 韓半島未来フォーラムの千英宇(チョ・ヨンウ)理事長は5日、本紙のインタビューで現政府による対北朝鮮政策をこのように評価した。千氏は1997年に韓国外交部(省に相当)に入り、外交政策室長や韓半島平和交渉本部長などを歴任し、2006年から2年以上にわたり北核6者協議の韓国首席代表を努めた外交の専門家だ。李明博(イ・ミョンバク)政権では青瓦台(韓国大統領府)外交安保首席に就任するなど、最前線の現場で得た経験と提言を、今回の新政府発足を前に『大統領の外交安保アジェンダ:韓半島の運命を変える五大課題』という書籍にまとめた。今月8日に同書の出版を控えた千氏は「北朝鮮に対する表面的な理解が最も危険だ」と指摘した。

 千氏は2006年2月に北核6者協議の首席代表に任命されたが、その当日にある夕食会で故・盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領に会った瞬間を回想した。千氏は「その時まで盧大統領は『北朝鮮によるウラン濃縮プログラムは実態がない』『米国のブッシュ政権は北朝鮮のレジーム・チェンジのため意図的に情報操作を行った』と考えていた」「核心スタッフらが大統領に陰謀論を入力してきた結果だった」と当時を振り返った。千氏は「私が出ていく席ではなかったが、1988年以来、北朝鮮が濃縮プログラムを進めてきた行跡を詳しく説明した」とした上で「北朝鮮の詐欺にだまされる危険性」を指摘したという。

 千氏は北朝鮮の核問題について「丘から転がり落ちる岩を再び丘の上に押し上げても、また転がり落ちることを繰り返す『シーシュポスの神話』のようだ」例えを使って説明した。「複数回行われた米朝首脳会談や数々の制裁でも北朝鮮の核開発の意志を押さえ付けることはできなかった」と診断したのだ。

 千氏は「北朝鮮非核化の必須条件は、北朝鮮が核を放棄しない場合に『経済発展と体制の生存』を放棄すべき状況に追い込む利害当事国の力と意志だ」と指摘した。千氏は「結局は北朝鮮に対するレバレッジ(てこ入れ)を強化するということだが、米国に北朝鮮の運命を決定づける力と能力があるとすれば、韓国のレバレッジは『米国を動かすことのできる力』であり、これがすなわち韓米共助だ」と主張した。千氏はこのような見方の延長線上で「非核化の検証がある程度終わるまで制裁の緩和を遅らせ、軍事オプションの信頼性を維持することが交渉レバレッジを維持するために重要だ」と強調した。

 千氏は対北ビラ禁止法など過度な「顔色伺い式」の対北朝鮮政策も批判した。千氏は「李明博(イ・ミョンバク)政府は北朝鮮への支援を非核化の進展度合いと連携する政策を進めたが、これに対して北朝鮮はありとあらゆる非難を浴びせた」「しかし哨戒艦『天安』爆沈に対する報復として、韓国が軍事境界線地域での北朝鮮向け拡声器放送やビラ散布を禁じた2004年の6・4合意を破棄すると、北朝鮮は水面下で執拗(しつよう)に対話を求めてきた」と明らかにした。千氏は「南北対話において北朝鮮があのときほど低姿勢で出てきたことはなかっただろう」「北朝鮮に好意を示し、機嫌を取ることは対話の雰囲気造成にはプラスになるかもしれないが、対北レバレッジの強化にはプラスにならない点を知るべきだ」と指摘した。

キム・スンヒョン記者

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  • ▲千英宇(チョ・ヨンウ)韓半島未来フォーラム理事長 /キム・ジホ記者

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