【萬物相】ソウル市内の中華料理店が中国秘密警察のアジト?

 1968年1月31日、北ベトナム軍とベトコンがサイゴンをはじめとする南ベトナムの都市を奇襲した。米国大使館を一時占拠して一部の都市を陥落させたが、すぐに米軍に鎮圧された。 作戦は完全に失敗したかのように見えた。しかし、米国大使館にベトコンの旗が翻る様子が生中継され、米国国内の反戦世論に火がついた。北ベトナム指揮部がこの作戦実行前に秘密会議場所兼武器庫として利用したのがサイゴン市内のフォー(米粉で作った麺〈めん〉料理)店だった。1988年、ベトナム政府はこの店を歴史遺跡に指定した。

 今ではほとんどないが、かつて北朝鮮は海外で120店以上も飲食店を経営していた。「玉流館」や「柳京食堂」などの看板を掲げたこれらの飲食店は、歌舞に秀でていた女性従業員を前面に押し出し、公演や北朝鮮料理を提供して莫大な「忠誠資金」を稼ぎ、北朝鮮に送った。外貨稼ぎよりももっと重要なのがスパイの拠点としての役割だった。現地の人々のほかに韓国人観光客や商社の韓国人駐在員たちもよく訪れたが、彼らが飲み食いしながら口にした言葉がそっくりそのまま北朝鮮・国家保衛省の秘密情報に加工された。

 「中国公安当局では反体制派の人物を弾圧するため、少なくとも53カ国で102カ所以上の秘密警察の拠点を運営している」とスペインの人権団体が暴露した。韓国政府も実態把握に乗り出し、ソウル市松坡区にある中華料理店が名指しされた。駐韓中国大使館は「いわゆる『海外警察署』は全く存在しない」と否定した。だが、この問題が明らかになった直後、この中華料理店は突然廃業を宣言した。

 問題の飲食店利用客がインターネット上に投稿したレビューがあらためて注目されている。「料理に誠意がなさ過ぎる」「絶対に二度と行かない」「料理したというより電子レンジでチンしたようだ」など「料理がまずい」という投稿のほか、「従業員同士でクスクス笑いながら中国語で会話している」「(従業員が)客がいるのに家に帰る準備をしている」「従業員が簡単な韓国語も分からない」などのように従業員の態度に失望したという反応がほとんどだった。中でも最も注目されているのは「(星)一つでも(付けるのが)もったいないです」「この店は明らかに料理店をやるために開いた店ではないと思われます」という3年前の投稿だった。

 韓国の防諜(ぼうちょう)当局はこの中華料理店を比較的早く中国の秘密警察拠点だと指摘したという。酷評が相次ぎ、大きな損を出しているのにもかかわらず、6年以上も営業しているのは疑問だということだ。歴代2位となる1600万人の累計観客動員数記録を打ち立てた韓国映画『エクストリーム・ジョブ』(原題:『極限職業』)は麻薬捜査班の刑事がフライドチキン店を装って開業し、捜査する姿を描いている。至極まじめに商売に取り組むあまり、いっとき刑事という本業を忘れるほどにまで至る。殺到する注文をさばこうと、容疑者尾行で支援を要請してきた同僚刑事に協力できなくなってしまうというコメディーだ。例の中華料理店がこの映画のフライドチキン店のようだったら、指摘されることもなかっただろう。むしろ幸いだったのかもしれない。

李竜洙(イ・ヨンス)論説委員

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