光州はなぜ朴栖甫を捨てたか【コラム】

軍部独裁に沈黙したとしてゲリラデモをする集団に押され、「朴栖甫賞」を廃止したビエンナーレ
光州は抵抗から和解へ向かっているのに、1980年代にとどまって芸術を政治化
彼らは芸術家でも何でもない

光州はなぜ朴栖甫を捨てたか【コラム】

 「鼻のないゾウ」は、今年の光州ビエンナーレで最も人気を集めた作品だ。小学生はもちろん中高年の人々まで、白、ピンク、薄緑で塗られた大きなゾウの造形物を触ってみて、不思議がりながら写真を撮っている。

【写真】オム・ジョンスン作「鼻のないゾウ」の一部

 ゾウなのに鼻がないからだ。「見る」とは何であるかという話題を巡り、アーティストのオム・ジョンスンは、視覚障害の子どもたちと一緒に生きているゾウを触ってみて、においをかぎ、鳴き声を聞いてみた後、その形象を粘土で作ることにした。ある子は、ゾウに餌をあげる手がゾウの鼻に吸い込まれたせいでゾウがくしゃみをして、鼻水が飛び散るという騒動を経験した。その子はゾウを、真空掃除機のホースのような形に作り上げた。

 見えているからこそ逆に偏見にとらわれるのではないか、と反問するこの作品は、光州ビエンナーレが制定した「朴栖甫(パク・ソボ)芸術賞」の最初の受賞対象に選ばれた。ステージ3の肺がんで闘病を続けている91歳の単色画の巨匠・朴栖甫は、ほぼ無名に近かったアーティストに賞金10万ドル(現在のレートで約1440万円)を渡して「初の受賞者が韓国人女性でうれしい」と語った。

 しかし、この心温まる光景は、もはや見ることはできなくなった。制定第1回のみで、朴栖甫芸術賞は廃止されたからだ。韓国美術界の一部のグループや市民団体は、開会式にゲリラ的に姿を現して「光州精神に泥を塗る朴栖甫賞を廃止せよ」と叫んだ。軍部独裁時代に沈黙していたというのがその理由だ。一部の批評家も加勢した。実験的かつ前衛的で挑発的な作業を通して芸術談論の枠組みを提示すべき光州ビエンナーレが、朴栖甫の作品1点の価格でビエンナーレの権威を売り渡した、と批判した。ビエンナーレ側は「大物アーティストにどこまで恥をかかせることになるかと心配で、廃止を決定した」と釈明した。

 皮肉なのは、こうした騒動と非難にもかかわらず、今年の光州ビエンナーレは観客から「過去最高」という賛辞を集めていることだ。楽しみやすく、温かみがあったからだ。赤い鉢巻を締めて拳を振り回す掛け絵でないとしたら、どういう意味なのか到底分かり難い映像作品、難解な設置作品が並び、観覧そのものが拷問だったかつてのビエンナーレとは違っていた。

 殺伐とした政治スローガンが抜けた場は、ウイットと寸鉄、省察で満たされた。土の香り漂う森の中に水の精霊たちが出てきて、傷だらけになった心身を癒やしてくれるようなアフリカのアーティストの「霊魂降臨」をはじめ、植民支配と強制移住のつらい歴史を、幼い子どもが描いたような澄んだ淡泊な色彩に昇華させたカナダのイヌイット原住民らの絵画まで、地球上で生きていくさまざまな民族の暮らしと哲学、苦難に打ち勝つ知恵を満喫できる諸作品を見ながら、観客は久々に芸術が与える癒やしを経験した。

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