「前政権のせい」の有効期間【朝鮮日報コラム】

当然やるべき「非正常の正常化」に前任者を召喚した瞬間、陣営問題に変質して政治闘争になってしまう…
「死んだ文在寅」と戦う理由はない

 尹大統領自身、前任者召喚の先頭に立った。政権初期、閣僚候補者を巡る論争が起きると「前政権の閣僚らの中にこれほど立派な人物を見かけたか」と反問し、検察出身者が多数重用されているという指摘が出ると「以前は民弁(民主社会のための弁護士会)出身者で埋め尽くされていたじゃないか」と言った。「報復捜査」批判には「民主党政権当時はやらなかったのか」と反論し、北の無人機による防空網突破については「文政権で訓練が皆無だった」という理由を挙げた。脱原発を破棄しつつ「過去5年間、ばかみたいなまねをした」と言い、減税を推進しつつ「先の政権では懲罰課税をちょっとやり過ぎていた」と言及した。

 言葉自体は、一つも間違っていない。文政権の親北・親中偏向が外交・安全保障を揺るがし、バラマキの税金主導成長は経済の体質を悪化させた。反市場的不動産規制、エネルギー・ポピュリズム、自害的脱原発が現在も国政に負担を与えているのは間違いない事実だ。しかし、政権が交代してから既に1年3カ月を超えた。当然やらねばならない「非正常の正常化」に前政権を引っ張り込んだ瞬間、陣営問題に変質しかねない。国政歪曲を正す政策問題を政治的攻防の対象へと追いやる、戦略的ミスだ。

 韓国土地住宅公社(LH)のマンションに鉄筋が入っていない問題で、尹大統領はまたも前任者を呼び出した。おろそかな設計・施工・監理は「いずれもわれわれの政権発足前に行われた」として、文政権にその責任を帰した。これは、100%正確な言葉でもない。文政権時代の不正工事のみ摘発されたのは、国土交通部が「2017年以降に」竣工した無梁版構造の駐車場を対象に調査を行ったからだ。歴代のどの政権でも建設不正は常に存在し、文政権がことさら他の政権よりも原因を提供したわけでもないだろう。大統領の「建設カルテル解体」の意思は拍手に値するが、わざわざ前政権の話を持ち出して政治攻防化する必要はなかった。

 2000年に政権を取った米ブッシュ政権は「ABC(Anything But Clinton:クリントンでなければ何でも)政権」と呼ばれた。先のクリントン時代の政策は無条件に覆したという意味だ。尹政権も、そのように映ってしまうことを警戒すべきだ。もし、尹政権が「ABM(Anything But Moon:文在寅でなければ何でも)」のレッテルを貼られることになったら、それは失敗に向かう道だ。

 過去と争うのではなく、尹政権自身の主体を持って「未来」を語ってくれたらと思う。「死んだ文在寅」と戦う理由はない。

朴正薫(パク・チョンフン)論説室長

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  • ▲尹錫悦大統領は8月1日に主催した国務会議(閣議に相当)で、LHマンションの大量鉄筋漏れ問題に言及しつつ「いずれもわれわれの政権発足前に設計のミス、不正施工、不正監理が行われた」と発言した。/写真=大統領室

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