■高熱の発生など弱点も多い
米国や中国の専門家らがキンジャール迎撃について分析した資料を見ると、極超音速ミサイルは弱点が少なくありません。スピードは速いのですが、その分摩擦熱の発生が大きく、容易にレーダーで捕捉されます。スピードとレーダー回避という二つの目的を同時に達成することはできないのです。
キンジャールは、高高度をマッハ2.8という速度で飛行するMiG31戦闘機に積んで発射されます。空気が薄い大気圏上層部では、最高でマッハ10のスピードを出すといいます。しかし空気の密度が高い低高度に来ると、速度がかなり落ちます。目標に接近する際はレーダーのシーカー(目標を検知して追尾する装置)を稼働させるためマッハ5以下に速度を落とすといいます。スピードが速いと弾頭部にプラズマ層が形成され、レーダーの作動を妨げるのです。キンジャールを早期に捕捉し、監視してきたパトリオットが、速度の落ちた瞬間を狙って迎撃したのだろう-というのが専門家らの分析ですね。
DF17極超音速ミサイルは、弾道ミサイル形式です。準中距離弾道弾の1段目ロケットに点火して大気圏上層部まで打ち上げて、HGVを切り離すのです。
大気圏外まで上昇して放物線を描いて落ちてくる弾道ミサイルと違って、このHGVは大気圏上層部に沿ってほぼ水平に飛行し、目標の近くまで来てから高速で落ちてくるので、早期の捕捉と迎撃は容易ではないといいます。そこで、いっそ宇宙から極超音速ミサイルの軌道をキャッチし、事前に対応しようという意図で開発中なのがHBTSSシステムです。
■米国、極超音速防御網の構築を本格化
米国連邦議会予算局(CBO)と議会調査局(CRS)が年初に出した報告書を見ると、米国も2000年代中盤まで極超音速ミサイルを開発していたとのことです。しかし、極超音速飛行の過程で発生する高熱によりレーダーなどで探知されやすいなど、技術的難関が少なからず存在し、巨額の開発費に比して効果は不明確という点などを考慮して、低速であってもレーダー網を避けて打撃できるステルスミサイルの開発へと方向転換した、といいます。米国が事実上捨てた技術をロシアと中国が引き継いで、極超音速ミサイルを開発したのです。
極超音速ミサイルはロシア、中国だけでなくイラン、北朝鮮なども開発に乗り出していますね。米国の緻密な防空網を突破する強力な非対称兵器になるだろうと見ているのです。しかしキンジャールがパトリオット・ミサイルに迎撃されたことで、こうした「極超音速神話」も崩壊するだろうとみられます。
米CRSは今年2月の報告書で「米国防総省が今年、極超音速ミサイル研究の予算として47億ドル(現在のレートで約6560億円。以下同じ)を要求し、ミサイル防衛局(MDA)も極超音速ミサイル防衛予算2億2550万ドル(約315億円)を別途要求した」と明かしました。既に蓄積された技術も少なくないだけに、遠からずして中国やロシアよりも優れた極超音速ミサイルを開発してのけるものとみられます。
崔有植(チェ・ユシク)東北アジア研究所長