■李鎬善(イ・ホソン)国民大学法学部長「弾劾訴追理由から内乱罪を省きたいと言った時点で憲法裁は審理を中断すべきだった」【弾劾却下】
複数の政治的論争はさておき、もっぱら法理的にのみ見れば、尹錫悦大統領の弾劾審判は満場一致で却下されるだろうと思う。
憲法裁判所は、国会側が弾劾訴追理由から内乱罪を省きたいと言った時点で審理を中断すべきだった。内乱罪を撤回するのは、弾劾審判の事実関係の大部分を消すものであって、国会議員の票決権を侵害するものだからだ。
審理の過程でも尹大統領側の防御権は甚大に侵害された。憲法裁判所法は、進行中の捜査・裁判記録は要求できないように定めているのに、憲法裁は検察と警察、公捜処の内乱罪捜査記録を弾劾審判の証拠として採択した。裁判が確定してもいない捜査記録を証拠として採択し、予断を持って事実関係を究明するという行為が、既に大統領側の防御権を保障していないのだ。捜査記録に含まれる供述も相当数は信頼し難い、ということが弾劾審判で判明してもいる。
証人尋問の時間を1人当たりそれぞれ45分に制限したことも問題だ。捜査記録を提出した側(国会)と記録の内容に一つ一つ反論しなければならない側(尹大統領)の立場が、同じということはあり得ないではないか。その分、国会側が時間を稼いで持っていくことになる。供述において矛盾が判明した証人は、十分に尋問が行われるべきだった。
裁判部の構成も、既に公正ではあり得ない。李美善裁判官は実弟が左派寄りの「民主社会のための弁護士会(民弁)」傘下の「尹錫悦退陣特別委員会」の副委員長を務めており、鄭桂先(チョン・ゲソン)裁判官は夫が国会側代理人の金二洙(キム・イス)弁護士と一緒に仕事をしている。公正性を疑わざるを得ない状況だ。
欧州人権裁判所も、裁判長のおいが一方の弁護士である場合は裁判の公正性が毀損(きそん)される、と判定した。にもかかわらず憲法裁は、大統領側の忌避申請は棄却し、裁判官が自主的に弾劾審判を回避するよう大統領側が要請しても回答しなかった。会社で社員を懲戒するときも、こんなふうには進めない。裁判所だったら、こんな懲戒は無効だとして取り消し判決を下しただろう。職場内の懲戒も手続き的正当性を備えるべきなのに、まして国の未来を左右する大統領弾劾審判は、なおいっそう慎重に進めるべきではないだろうか。
憲法裁が弁論の過程で見せた姿は、世界のどこに出しても恥さらしな「K裁判」の結晶だ。より大きな問題は、今回の弾劾審判が「あしき先例」として残り、今後の審判に悪用されかねないということだ。弁論時の誤りを、今からでも正したいのであれば、却下決定を下さなければならない。却下決定を下せば、先例も残らない。
国民統合の側面からも、却下決定が最もよい。認容や棄却はいずれも大変な社会的分裂を呼ぶだろう。憲法裁は共同体的観点から決定すべきだ。
それでも憲法裁が却下ではなく本案の判断を下すつもりであるならば、非常戒厳そのものの違憲性についてだけでなく、非常戒厳宣布の背景も十分に検討すべきだ。「罷免すべきほどの違憲・違法があったか」という問題は、その基準が相対的であることは避けられない。大統領が非常戒厳宣布の理由として挙げた野党の立法権限乱用、選管サーバーの不正介入の可能性なども憲法裁が総合的に判断すべきだろう。
キム・ヒレ記者、兪鍾軒(ユ・ジョンホン)記者、パク・ヘヨン記者
【グラフィック】尹大統領に対する捜査・弾劾審判に見る「手続き無視」