記者は子どものころ釜山に住んでいたが、釜山では自宅のテレビで日本の番組を見ることができた。当時の韓国はテレビの越境受信に関して何ら対策をしていなかったようだ。韓国よりはるかに進んでいた先進国・日本の放送はピカピカ輝いて見えた。アニメ映画などは本当にうっとりするほどだった。放送が白黒だった時代にカラーで見られたのだから、うっとりするのは言うまでもないだろう。大人たちは「ソウルのテレビ局からスタッフが釜山にやって来て、1-2週間ほど日本のテレビを見て番組をパクッている」とうわさをしていた。それが本当なのか確認はできなかったが、全くのうそではなかったと思う。

 最近の韓国政府の政策を見ていると、当時のことが思い出される。先ごろ企画財政部(省に相当)が発表した投資活性化対策には、自宅の部屋を観光客などに提供して宿泊料を徴収することを合法化するという内容が盛り込まれた。米国の「エアービーアンドビー(Airbnb、宿泊共有サービス)」を導入するというのだ。Airbnbは2008年に設立され、現在では191カ国、3万5000都市で、およそ200万部屋を提供するグローバル企業に成長した。企画財政部の官僚たちは「韓国型Airbnb」という表現は使わないものの、皆そういうものだと見なしている。

 金融委員会が「万能通帳」だとして金融改革の代表商品の一つに掲げる「個人総合資産管理口座(ISA)」も同じだ。ISAは英国で1999年に始まり、日本が証券市場の活性化策の一つとして2014年に導入して成果を上げた。それをまねて韓国にも導入しようというわけだ。

 昨年登場した政府の消費振興策は、「コリア・ブラックフライデー」と名前までパクッてしまった。ブラックフライデーとは、米国で11月の第4木曜日「サンクスギビングデー」の翌日(金曜日)から始まる大々的なセールのことだ。多くの店の帳簿が赤字から黒字に転換するということからこのような名前が付けられた。

 経済官僚らは数年前まで「先進化」という言葉を頻繁に使っていた。〇〇産業の先進化対策、〇〇分野の先進化政策、といった具合だ。米国やドイツなど先進国で実施している政策を参考にしたのだから何の問題もないだろうと考えていたわけだ。

 はるか後ろから先行者を追い掛けるときは、まねすることが近道にもなり得る。しかし今年は2016年だ。韓国も世界のトップ10に入る経済力を持つ国になっている。それにもかかわらず政府の政策が外国の成功例を集めた程度にすぎないのであれば、何かが間違っている。大ヒット商品が生まれるとそのままパクってしまう飲料・製菓業界の「ミートゥー(Me, too)戦略」をあざ笑っている場合ではない。

 大統領が口を酸っぱくして強調する規制改革を何かにつけて後退させようとする官僚、大統領や首相の外出先や、かろうじて伝統市場や輸出企業に出向く官僚、「われわれの問題は現場に答えがある」とスローガンが貼られた机を離れない官僚、韓国の政策はこれらの官僚たちがつくり出す「輸入翻訳版の政策」ばかりがあふれている。サムスン電子の携帯電話ブランド「Anycall」を思い出してほしい。今でこそギャラクシーという名前に押されて消えてしまったが、Anycallの最初の宣伝用スローガンは「韓国の地形に強い」だった。「韓国経済の問題に強い」政策を立案してくれる官僚はいないのだろうか。

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