「米国が北朝鮮を実際に先制攻撃(予防攻撃)する可能性は0パーセントだと思います」

 4月17日にある安保団体が韓国国会で、5政党の大統領候補の安全保障特別補佐を招いて政策討論会を開いた。この席で、ある大統領候補の陣営に属する予備役陸軍中将出身の安全保障特別補佐は、このように断言した。この予備役中将は首都防衛司令官、合同参謀本部(合参)作戦本部長などを歴任し、韓国軍を代表する戦略・作戦通に挙げられる人物だ。多くの韓国国民の懸念にもかかわらず、韓国軍出身者の間では、彼のように「米国が予防的な先制攻撃を行う可能性は極めて低い」と考える人物の方がむしろ多い。北朝鮮相手では、全面戦争に拡大する可能性などシリアに比べて備えるべき事項が多く、危険負担がはるかに大きいということをよく知っているからだ。

 にもかかわらず、先制攻撃に代表される「4月戦争説」が急速に拡大したのは、トランプ大統領の強硬な北朝鮮圧迫と、予測不能な彼の性格に大きく影響されたからだ。加えて、韓国国内の一部保守層による「希望的思考」も、拡大を加速させたらしい。「希望的思考」とは「この機会に、トランプ大統領が北朝鮮をたたいてでも核問題を速やかに解決してくれればいい」「トランプ大統領なら、誰もできなかった先制攻撃をできるのではないか」などといったものだ。

 しかし、トランプ大統領がいかに後先を考えない人物であっても、韓国国内の米国人23万人(在韓米軍2万8500人を含む)の安全や、対韓投資額が数千億ドル(現在のレートで1000億ドル=約10兆9700億円)に達する米国資本などには気を使わないわけにはいかない。その一方、先制攻撃の可能性を「ゼロ」にはしてくれない変数も存在する。事態拡大の危険性などをよく理解している米軍の指揮官は、先制攻撃のカードに極めて慎重だろうが、政治家のトランプ大統領は、先制攻撃のカードを切りたいと考えることもあり得る。歴史的に米国では、将軍らは戦争を起こすことに消極的だったのに、政治家らは積極的だったというケースが多い。

 4月22日、中国の国営メディア『環球時報』が「米国が北朝鮮の核施設を先制攻撃するとしても、中国は軍事的に介入しないだろう」と報じたのも意味深長だ。しかし先制攻撃がなされるとしても、韓国が期待する完全な非核化の実現は難しい、というのが現実的な問題だ。どこにあるのか韓米の情報当局も把握できていない北朝鮮の秘密核施設、100基を超えるミサイルの移動式発射台(TEL)、そしておよそ1000発の弾道ミサイルのうち相当数は、先制攻撃を生き残って韓国を脅かし続ける可能性が高い。一部の専門家は、米中両大国が韓国を差し置いて、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発阻止および核凍結のレベルで妥協点を探る可能性も懸念している。

 トランプ大統領は、北朝鮮軍創設記念日の前日に当たる4月24日に、日本の安倍晋三首相、中国の習近平国家主席と相次いで電話会談を行い、北朝鮮の核の阻止に向けた緊密な協力をアピールした。しかし、当の韓国は蚊帳の外だった。このように、北朝鮮の核をめぐり最近切迫しつつある韓半島(朝鮮半島)周辺の情勢は、韓国人に、単なる緊張感以上の覚悟を求めている。大統領候補らも、北朝鮮の核問題の第一当事者は韓国人なのだという事実をあらためて心に刻み、より根本的な北朝鮮の核・ミサイルへの備えをどのように推進するのか、深く考えるべきだ。北朝鮮の政権が核の放棄を拒否し続ける場合、金正恩(キム・ジョンウン)委員長の除去を含む北朝鮮の政権交代、濃縮・再処理技術の確保を通した核武装潜在力(核武装の選択肢)の確保、戦術核再配備などが韓国独自のオプションになり得るだろう。

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