「疲れていても他に方法がない。新婚で暮らしはぎりぎりだし、生活費の足しにするために運転代行の仕事を頑張らないといけない」

 「週52時間勤務」が本格的にスタートした2日午後9時、ソウル市城東区で会ったキムさん(34)の目は真っ赤に充血していた。キムさんは午前8時にプラスチック生産工場に出勤し、午後8時に退勤、休む間もなく「第2の職場」に出勤したところだった。

 キムさんの仕事は、運転代行の「随伴車」の運転だ。運転代行のドライバーが酒に酔った客の車を運転する際、キムさんはその後ろを随伴車でついていく。そして目的地までの運転を終えた代行ドライバーを次の地点まで乗せていくのがキムさんの仕事だ。

 キムさんは今年4月から随伴車の運転の仕事を始めた。2013年から勤務している工場は、週52時間勤務の導入に伴い、それまでの2組2交代勤務が4月から3組2交代勤務に変わった。キムさんの労働時間は週72時間から52時間に減少した。

 労働時間の減少に伴い、330万ウォン(約33万円)だった月給が100万ウォン(約10万円)近く減った。予想もできなかったことだった。キムさんは「結婚してまだ6か月の新婚夫婦なので、子どもを持つためにはわずかなお金も無駄にできない」として「会社が社内規定で副業を禁止しているため、所得申告の必要がない随伴車運転の仕事を始めた」と話した。運転代行のドライバーは会社に登録しなければならないが、随伴車のドライバーは登録する必要がない。キムさんは「同僚たちが、月給が減った分を運転代行の仕事で補っていると聞き、運転代行ドライバー用のネットのコミュニティーサイトに仕事を探していると書き込んだ」と話した。

 記者はこの日午後9時から深夜1時までキムさんの車に同乗した。この日、キムさんとペアを組んだ代行ドライバー(客車運転)は50代のチェさん。運転代行ドライバー用のコミュニティーサイトでペアが成立した。

 キムさんはこの日、ソウル・江南から京畿道河南市まで運転し、代行ドライバーを乗せて戻った。台風の影響で豪雨が降り注いでいたが、スピードメーターは時速100キロを指していた。助手席に乗った記者の手は汗で湿ってきた。キムさんは「客車よりも先に目的地に到着していれば、代行ドライバーが呼び出しコールに反応できるのですぐに次の客の所に向かうことができる」と話した。スピードの出し過ぎで事故を起こすケースもある。キムさんは「接触事故を起こせば1日の日当が台無しになる」と話した。

 キムさんと代行ドライバーのチェさんはこの日、5人の客を乗せ、計12万ウォン(約1万2000円)を稼いだ。会社側に手数料20%(約2万4000ウォン=約2400円)を払い、残りを二人で4万8000ウォン(約4800円)ずつ分ける。キムさんは「1時間当たり1万-1万5000ウォン(約1000-1500円)ぐらい稼ぐ。週に4日この仕事をすれば、1か月に80万-100万ウォン(8万-10万円)の稼ぎになる」と話した。随伴車の運転を始めてから、キムさんの休息時間(睡眠時間)も、労働時間短縮が始まる前の11時間から6時間へと大幅に減った。

 キムさんのように、運転代行の世界に飛び込む人が増えている。中小企業の課長、大企業のドライバーなど、労働時間短縮によって所得が減少した人も多い。運転代行ドライバーのマッチングサービスを行う「カカオドライバー」によると、先月に運転代行ドライバーとして登録した人は11万人。昨年6月に登録した人数(約8万人)に比べ3万人も増えた。

 幼稚園に通う息子を持つ中堅企業社員のチェさん(34)も、1か月前から退勤後に2-3時間ほど随伴車運転の仕事をしている。チェさんは「子どもが成長する時期なのに、月給が約60万ウォン(約6万円)も下がったため、小遣い稼ぎのためにやっている」と話した。夫婦で運転代行業に参入したケースもある。ソウル市江西区に住むチョンさん(44)=女性=は、夫婦とも首都圏の中小企業で課長クラスとして働いていた。夫の職場が52時間勤務を採用したため、月給は80万ウォン減ったという。チョンさんは「10歳と8歳の子どもがいるため、生活費の足しに週3日、退勤後に3-4時間ほど夫が客の車、私が随伴車を運転している」と話した。

 運転代行を本業とするドライバーたちは「会社員たちが大挙して運転代行の世界に参入してきたため、客を獲得するのがとても大変だ」と話した。全国運転代行ドライバー協会のキム・ジョンヨン会長は「職が見つかっても随伴車のドライバーは企業に登録するわけではないため、客車の代行ドライバーが収益を分けずに持ち逃げするケースや、客車を必死で追い掛けていて誤って歩行者をはねるという事故を起こすケースもある」と話した。

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