「統計が政治的な道具にならないように心血を注いだ。それが国家統計に対する国民の信頼を得る正しい道だったからだ」

 黄秀慶(ファン・スギョン)前統計庁長は27日、政府大田庁舎の大講堂で開かれた離任式で終始涙を流しながら、あいさつを続けた。黄前庁長は「過去1年2カ月、大きな過ちなく、庁長の職務を遂行した。統計庁の独立性、専門性を最優先の価値とし、それを重心にしようと努力した。国家統計は正しい政策を樹立したり評価したりする上で、基準にならなければならない」などと強調した。

 黄前庁長は離任式直後、インターネットメディアが更迭理由を尋ねたのに対し、「自分は知らない。それは(青瓦台の)人事権者の考えだ。それはどうあれ、自分はそれほど(青瓦台などの)言うことを聞いた方ではなかった」と話した。

 全羅北道全州市出身の黄前庁長は、大学時代に労働運動を行い、週刊労働者新聞で2年間記者を務めた。そして、30年余りにわたり、労働経済を研究した。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権で大統領職引き継ぎ委員会諮問委員、大統領諮問政策企画委員会委員を務め、文在寅(ムン・ジェイン)政権と政策路線が一致するとの評が聞かれた。しかし、理由も分からないままに辞任に追い込まれた。

 文大統領が黄前庁長を突然更迭したのに続き、青瓦台が所得主導成長のプラス面が示されるように、統計庁に新たな調査方法の策定を求める方針を固めたことが27日までに分かった。これに対しては、「青瓦台の意向に沿った統計を注文したのではないか」と指摘する声がある。与党幹部は「文大統領と青瓦台のブレーンは、実際の経済状況は改善しているのに、統計庁の調査方式が現実を反映していないと判断している。下半期から統計庁と国策シンクタンクなどが前向きな経済現象を反映した深層分析、研究を多数発表する予定だ」と説明した。

■統計庁に過ちはあったのか

 青瓦台は統計庁が経済指標を調査し、国民に説明する方式に問題があるとみている。例えば、低所得層の所得が大幅に減少したという結果が出た今年の家計動向調査の場合、標本世帯が昨年の5500世帯から今年は8000世帯に増え、高齢・低所得層の世帯の割合が大幅に高まった。昨年までは2010年の人口総調査の結果に基づき、標本を抽出していたが、今年からは15年の調査に基づき、標本を新たに抽出したため、60歳以上の世帯主の割合が当初の34.7%から37.2%に上昇した。過去の統計数値と単純比較すべきではないのに、統計庁がそのまま発表し、説明にも問題があるというのが青瓦台の立場だ。しかし、専門家は標本の差が統計の傾向を変えるほどのものではないとみている。キム・ドンヨン経済副首相も27日、国会で「標本の誤りで(所得)分配の格差が拡大したという考えには同意しない」と述べた。

 カン・シンウク新統計庁長は、過去に保健社会研究院の研究委員として働き、青瓦台と同様を主張を行っていた。カン庁長は15日に発表した「最近の所得不平等の推移と特徴」と題する文章で、「統計庁の調査資料は毎年多かれ少なかれ変化を示し、過去との比較を不可能にした。所得分配を改善するためのさまざまな政策に対し、豊富な情報を提供する(あらたな)資料生産が速やかに再開されるべきだ」と主張した。政府筋は「青瓦台は新庁長のそうした主張に注目したと聞いている」と話した。

■新庁長と青瓦台元秘書官の親しい関係

 しかし、政府内からは青瓦台の方針が経済官庁や国策シンクタンクに「統計の歪曲(わいきょく)」をそそのかしかねないという懸念が示されている。保健社会研究院などは今年5月、青瓦台の指示を受け、統計庁の家計所得動向資料を「再加工」し、青瓦台に提出した。文大統領はそれに基づき、「最低賃金引き上げのプラス効果は90%ある」と発言した。しかし、その資料は最低賃金引き上げで直撃を受けた自営業者や無職などが抜け落ちた統計だった。カン新庁長は資料を作成した人物と目されたが、国会答弁で否定した。

 カン新庁長が抜てきされた背景を熟知する関係者によると、青瓦台の洪長杓(ホン・ジャンピョ)元経済首席秘書官がさまざまなデータを探す際、統計庁の協力を得られず、カン新庁長の支援を受けていたという。カン新庁長は所得主導成長政策の青写真を描いた洪元秘書官と同じ学派である辺衡尹(ピョン・ヒョンユン)教授の教え子グループに属するとされる。

■「御用統計」「粉飾統計」への懸念

 野党は統計庁長交代劇について、「事実上、青瓦台は『粉飾統計』をつくろうとしているのではないか」と強く批判した。自由韓国党の金聖泰(キム・ソンテ)院内代表は「国家経済が大変な状況にあるのに、火事を出した人物ではなく、火事だと騒ぐ人の責任を問うようなものだ。統計の設計が誤っていたとしても、所得分配指標が悪化したという現実はごまかせない」と述べた。正しい未来党の金寛永(キム・グァンヨン)院内代表も「統計を歪曲することは世論操作と同じ深刻な犯罪行為だ」と語った。

 経済専門家は公式統計が信じられなくなれば、経済政策への信頼も崩壊すると指摘する。西江大の李仁実(イ・インシル)教授(元統計庁長)は「今は李下に冠を正すようなことをすべきではない時期なのに、国民に統計庁が示した数値は『信じられない』という印象を与えた」と批判した。匿名の経済学者は「今回の統計庁長人事は所得主導成長の没落を認める『シグナル』のような印象を与える」と評した。

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