テレビのお笑い番組は流行語で勝負する。多くの人々がまねする流行語を作り出せば視聴率が上がって長寿番組になる。「何なの? 素人じゃあるまいし」もその1つだった。事情をよく知る「プロ」の前で「素人」のようなお粗末なことをした時に使う言葉だ。今月初め、大統領府が「金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長がソウルを答礼訪問するかどうか分からない」とけむに巻いた時、その流行語を思い出した。この時は文在寅(ムン・ジェイン)大統領がトランプ米大統領に会い、「金正恩委員長の年内答礼訪問」について了解を求め、大統領専用機内での記者会見では「金正恩委員長が答礼訪問すれば、全国民がもろ手を挙げて歓迎してくれるものと信じている」と述べた直後だった。そう言っておきながら、答礼訪問の実現ははっきりしないというのだ。思わず「何なの? 素人じゃあるまいし」という言葉がのどから出かかった。

 外交・安保分野の高官を務めた人物は「答礼訪問効果を最大限引き出すために、南北がたくみに共同演出している」と言った。筆者も同じ考えだ。そうまでしておきながら、年内答礼訪問が実現しなかったら、韓国政府はバカを見るからだ。南北は劇的な発表時期をうかがっていることは察しがつく。

 そんな察しが確信に近づいたのは、大統領府広報館「サランチェ」広場前の大きな絵を見たからだ。画家がスプレーで文在寅(ムン・ジェイン)大統領と金正恩委員長が握手する姿を描いた。作品が毎日描かれていく様子は大統領府訪問者たちがソーシャル・メディアで伝えた。「金正恩委員長が来たら、その絵の前で文大統領と写真を撮るのだろう。またうまく整えられた新たなイベントか」と思った。

 ところが、金正恩委員長の年内答礼訪問は実現不可能となりそうな雰囲気だ。「来ないかもしれない」と言われた時は「困ったような振りをしているんだな」と思ってニヤリと笑ったが、「本当に来ない」と言われると、あ然としてしまう。先週末の夜、一緒に過ごした外交・安保専門家たちも首をかしげた。答礼訪問が不確実な状態のまま、韓国政府があれほど無謀にハンドルを切っていたというのが信じられないからだ。素人のふりをしているのかと思っていたが、正真正銘の素人だったのだ。だから余計に「一体何なの?」という言葉がまた口に出てしまう。

 心配は心配を生む。トランプ大統領は答礼訪問中止の知らせを聞いてどう思ったのだろうか。「『金正恩委員長の答礼訪問を歓迎する』と一言頼むと言っていたのに、外れだったね。プレジデント・文(ムン)、お粗末な人だ」。サランチェ前の絵はどうなるのか。展示期間が延長されるのか、あるいは続編を注文しなければならないのか。タク・ヒョンミン行政官の「脱・大統領府」時期は「初雪」のころではなく「春雨」のころになるのか。

 答礼訪問実現に関してああだこうだと言われていたさなか、「ローマ法王の来年の訪朝は不透明だ」というニュースが報じられた。米政府系放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)放送が「来年の法王の海外訪問スケジュールに訪朝は含まれていない」という法王庁関係者の話として伝えられた。韓国の相当数のメディアが「ローマ法王は『無条件で北朝鮮に行く可能性がある』と語った」と報道してから2カ月もたっていない。法王が発言を翻したのか、大統領府が法王のリップサービスを拡大解釈したのか。法王は当初、「北から招待状が来たら検討してみる」ということだったが、北朝鮮が招待状を送ったという話もない。法王の訪朝は、文大統領がアイデアを出し、北朝鮮から先に切り出し、法王庁まで行って取り持とうとした野心作だった。ところが、肝心の双方の当事者たちは歓迎していなかった。仲を取り持とうと1人ではしゃいでいた人間だけがぼう然と天を仰ぎ見ている状況だ。

 映画『ゴッドファーザー』の主人公ドン・コルレオーネは、「麻薬ビジネス」を提案された場で軽口をたたいた長男を呼び出し、「ファミリー以外の人間にはお前が何を考えているのか絶対に言ってはいけない」と厳しく警告した。自分の意図を相手に気づかれないようにしろという教訓が通用するのはマフィアの世界だけではない。自分の持ち札ばかりを先に明かせば交渉が不利になる。また、交渉が自分の意図とは異なる結果になった時、体面の問題も生じる。大韓民国の大統領は金正恩委員長の答礼訪問やローマ法王訪朝にこだわって徒労に終わった。「対北朝鮮制裁解除によって非核化を促進する」という構想を掲げて出発した欧州歴訪では、「完全に非核化されるまで制裁を維持する」という共同宣言文が採択された。原発受注のため行ったかのように説明していたチェコ訪問では、原発の話を切り出すこともろくにできなかった。国際舞台での度重なる文在寅外交の素人ぶりに、韓国の国民も顔を赤らめている。

 ドン・コルレオーネが「お前が何を考えているのか絶対に言ってはいけない」と警告した時、言ってはならない相手は「ファミリー以外の人間」だ。つまり、ファミリーという仲間うちなら考えを明かしてもいいということだ。文在寅政権が本音まですべて打ち明けたのは、北朝鮮の金正恩委員長たちのことをファミリーだと思っているからで、だから真摯(しんし)な気持ちを伝えるためにやったというなら、ほかにいう言葉はない。

金昌均(キム・チャンギュン)論説主幹

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