2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)騒動が発生した際、ある米国の放送局が「SARSは誤って実験室から流出した中国の生物兵器の可能性がある」という主張を紹介した。「自然界では起こり得ない2つのウイルスの組み合わせ」という分析も付けられていた。すると中国のネットユーザーたちは「SARSが中華圏に深刻な被害をもたらしている一方で、米国と欧州には何ら打撃がない」として、逆に「米国の生物兵器説」を拡散させた。米・中はウイルスをめぐっても戦線を形成する。

 武漢肺炎(新型コロナウイルス感染症)によって、米・中が再び顔を赤くして対立している。米国が武漢の総領事館を他国に先駆けて閉鎖するとともに、中国滞在者の入国を禁止すると、中国は「米国の過敏な反応がむしろ混乱をあおっている」と怒りをあらわにした。その上で、米国のインフルエンザ被害を持ち出した。中国外務省のスポークスマンは「米国国内でインフルエンザによって1万人以上が亡くなった一方で、新型コロナウイルス感染症は361人の死者(2日現在)しか出ていない」と述べた。

 実際に米国のインフルエンザの状況が深刻なのは確かだ。ここ10年間で最悪だという。2000万人が感染し、死者数も増え続けている。一部の州では休校令が出され、献血を禁止した。米国メディアは「インフルエンザは毎年、全世界で65万人の死者を出している。現段階では、米国ではインフルエンザの方が新型コロナウイルスより大きな脅威だ」と指摘した。単純に死者の数だけ見れば、中国の主張はもっとものようにも思える。

 しかし医学的には、この二つは次元の異なる脅威だ。インフルエンザは原因・感染経路が全て把握されている上、予防ワクチンがあるため統制が可能だ。ただし、非常にありふれた疾患のため人々が軽く考え、これが被害を拡大させる。米国のインフルエンザ予防接種の接種率は50-60%程度だ。一方で武漢肺炎は何も解明されておらず、当然ワクチンもない。今後どのくらい拡大するのかも分からない。致死率もインフルエンザの0.05%に対し、武漢肺炎は2-4%とはるかに高い。これが、世界が恐怖に震える理由だ。米国国内のインフルエンザは、それ自体が大きな問題だが、中国がこれを口実に米国の新型コロナウイルス対応を問題視するのは論点がずれている。

 与党「共に民主党」のある大統領選党内候補が「米国インフルエンザで1万人が死亡したが、それなら米国と米国人を嫌悪し、見下さなければならないのか」と述べた。中国嫌悪をやめるよう呼びかけた際に引き合いに出したものだが、次元の異なる二つの疾病は同じ線上で比較するものではない。「武漢肺炎」という呼び方は中国嫌悪を助長するとして「新型コロナ」と言い換える人たちが、あえて「米国インフルエンザ」という言葉を使う理由も気になる。

イム・ミンヒョク論説委員

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