▲文大統領、日本軍による慰安婦被害者、李容洙さんと共に/聯合ニュース

 「アイ・キャン・スピーク、李容洙(イ・ヨンス)さんが青瓦台へ行く」--。2017年11月7日、トランプ米大統領の国賓晩餐会の前触れ記事だった。慰安婦被害者の米議会での証言を題材にした映画「アイ・キャン・スピーク」の実在人物、李さんを招待したというのが青瓦台のセールスポイントだった。晩餐会の様子を伝えたインターネットメディアは「任鍾晳(イム・ジョンソク)秘書室長が李容洙さんのところに行ってあいさつし、しばらく会話する姿が目立った」と伝えた。「トランプ大統領夫妻を迎えるため、李さんと共にできなかった大統領が秘書室長を送って細かく応対させた」とのことだった。就任後初めて米大統領と会う瞬間ですら、慰安婦被害者のことを忘れない大統領の心遣いが伝わってきた。

 インターネットには文大統領と李容洙さんの「ツーショット写真」があふれる。最初は文大統領が初めて大統領選に出馬した2012年の「大邱・慶北慰安婦追悼の日」だった。17年の大統領選前日の最後の選挙集会でも李さんを壇上に招いた。大統領就任後の公式行事にも4回招待した。常に李さんが焦点になった。19年の3・1運動100周年記念式では、李さんと「アイ・キャン・スピーク」の俳優イ・ジェフンが大統領夫妻と並んで着席した。文大統領が李さんを迎える様子も特別だ。儀礼的な握手の類いはない。親しく抱き寄せたり、車椅子に座った李さんの手を握り締めたりした。

 その李さんが「尹美香(ユン・ミヒャン)が国会議員をやってはならない」と発言した。「30年間、慰安婦被害者は利用されてきただけだった」と言うのだった。日帝に強制動員された慰安婦、勤労者の家族会である太平洋遺族会も「李さんの発言は全て正しい」と主張した。尹氏が国会議員になったのは慰安婦運動のおかげだったが、慰安婦被害者は尹氏にはその資格がないと言う。

 2018年1月4日、慰安婦被害者を招いた昼食会で、文大統領は「慰安婦被害者の意思に反する慰安婦合意に大統領として謝罪する」と述べた。朴槿恵(パク・クンヘ)政権下の15年の韓日合意について、代わりに謝罪したものだった。そして、同年11月、韓日合意に基づく和解・癒やし財団は解散された。事実上の合意破棄に等しい。文大統領は国民に何度も謝罪した。済州島4・3事件、ベトナム戦争への国軍参戦、在日同胞スパイ事件、5・18(光州事件)、釜山・馬山抗争強制鎮圧…全てが過去の政権下での出来事だった。表面は謝罪だが、実際は前政権に対する批判だ。文大統領は「慰安婦被害者の意思に反する」与党議員の選出には謝罪しない。謝罪どころか正そうともしない。大統領が政権与党の議員を辞任させることは国家間合意の破棄よりも難しいことだろうか。

 文在寅政権は慰安婦被害者の故・金学順さんが初めて被害事実を証言した8月14日を「慰安婦被害者を偲ぶ日」に制定した。18年8月14日の初の記念式にも李容洙さんが招かれた。当時大統領は「慰安婦問題は被害者の心の傷が癒えるまで解決しない」と発言した。李さんは最近、尹氏のせいでつらい。「馬鹿みたいにしてやられ、これまで何も言えなかったのかと思うと、寝ても覚めても泣いていた」と話した。文大統領はその傷を見て見ぬふりし、「青瓦台を巻き込むな」と言う。

 李さんは大統領が本当に自分のためにやってくれていると感じていたはずだ。青瓦台の行事に4回も主賓として招かれ、実の母親のように迎えてくれた。「被害者の意思に反することはしない」「被害者の傷を癒やす」という大統領の誓いも文字通り信じたはずだ。李さんは慰安婦問題の主人公は尹美香氏ではなく、自分だと感じたはずだ。大統領は「被害者中心の解決」を強調し、被害者が「主体」にならなければならないと語ってきたではないか。李さんは大統領が尹美香氏ではなく、自分の見方になってくれると固く信じていたはずだ。純真な錯覚だった。

 文大統領にとって慰安婦運動は反日ビジネスだ。大韓民国政治で反日ほど確実に儲かる商売はない。その事業パートナー、尹美香氏が代表を務めたのが韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)であり、正義記憶連帯(正義連)だ。李さんはよく売れる看板商品だった。CEOも看板商品も重要だ。しかし、そのうち一つを選ぶとすれば答えは決まっている。文大統領が積弊清算に取り組んできた尹錫悦(ユン・ソギョル)検察総長を「我が総長」と呼んでいたのに、チョ・グク元法務部長官の一件に手を触れた途端、改革対象に追い込んだのと同じ道理だ。李さんは文大統領が自分を4回も主賓で呼んでくれたと考えたはずだ。実は「慰安婦被害者に誠心誠意尽くす大統領」というイメージを具現するために助演俳優を4回動員したにすぎない。

金昌均(キム・チャンギュン)論説主幹

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