2011年3月11日の東日本巨大地震当時、超大型の津波が福島第一原子力発電所を襲った。1号機、2号機、3号機、4号機の原子炉が相次いで爆発し、メルトダウン(内部の温度が急激に上昇し炉心が溶ける現象)が起こった。1945年に広島と長崎に原爆が投下されて以来、最も深刻な危機だった。これをきっかけに朝日新聞の主筆だった船橋洋一氏は「日本再建イニシアティブ(現アジア・パシフィック・イニシアティブ)」を立ち上げた。民間の調査委員会を発足させ、福島事態発生の原因とその処理のプロセスを調べ、これを発表し大きな反響を起こした。過去10年にわたり福島事態を追跡・分析した結果をまとめた「フクシマ戦記」も出版した。

 一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)理事長の船橋氏は8日、本紙とのオンラインでのインタビューで「フクシマ事態はまだ終わっていない」と指摘した。「今なお4万人以上が避難生活を強いられ、日本社会は教訓を得られていない」と批判もした。

 船橋氏は「日本では今なお『安心ポピュリズム』が流行している」とした上で「54基の原発を稼働しながら、『原発は安全』と口で言うだけで、政治家や政府、メディアはまたも国を揺るがしかねない事態に対しては真剣に対処していない」と批判した。その一例として「新潟県の柏崎刈羽原発は、有事に住民の避難計画を誰が責任を持って指示するかという問題が解決されておらず、今なお再稼働ができない」と指摘した。国を揺るがす事態が発生したときに、司令塔が誰か今なお不明確ということだ。

 船橋氏は「福島事態からの復旧にどれだけ多くの費用が使われたのか」との質問に「日本経済センターは2040年までに総額80兆円がかかると予想している。これまで22兆円が投入されたが、今後約60兆円が追加で必要になるわけだ。これは財政的に大きな負担になるだろう」と説明した。

 船橋氏は「福島事態にもかかわらず、原子力エネルギーは今も必要だ」とも主張する。船橋氏は「人類の歴史は近代以降、一つのエネルギーだけに頼ってはこなかった。さまざまなエネルギーを組み合わせて使うことが必要だ」「原子力エネルギーを活用しなければ、エネルギー安全保障に問題が生じる」と説明した。

 船橋氏は福島事態が米日同盟に危機をもたらしたことも回顧した。「当時の菅直人首相の危機管理リーダーシップは失格だった」として「米国のオバマ政権は菅内閣が問題解決を放棄したのではと懸念し、在日米軍を撤収させることも検討した」と明らかにした。しかし米国は「日本が危機管理に失敗すれば、米国にも大きな損失が出る」と判断し、米国原子力規制委員会(NRC)の専門家を日本に急きょ派遣した。2万キロ上空に毎日無人偵察機グローバルホークを飛ばし、放射能関連の情報を収集して日本に伝えた。船橋氏は「福島事態によって日米同盟はより強固になったが、自国の安全は自国が守らねばならないという教訓も得た」と指摘した。

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