京畿道坡州の臨津閣近くで北朝鮮に向けてビラを飛ばそうとしている脱北者団体。2016年4月29日撮影。/キム・ジホ記者

 米国議会のトム・ラントス人権委員会が8日、韓国の対北ビラ禁止法や北朝鮮の人権問題などについて検討する公聴会を今月15日にリモート開催すると発表した。韓国政府が米議会の人権公聴会で取り上げられるのは非常に異例だ。人権と民主主義を重視するバイデン政権において、韓国が「人権と表現の自由を侵害する国」という烙印が押される可能性も排除できない状況になった。トム・ラントス人権委員会が北朝鮮における最大の祝日である太陽節(故・金日成〈キム・イルソン〉主席の誕生日)と同じ日に公聴会を行うことについても「南北双方に向けた強い政治的メッセージだ」との見方も出ている。

 公聴会にはイ・インホ元駐ロシア大使や北朝鮮自由連合のスーザン・ショルティ代表、ヒューマン・ライツ・ウォッチのジョン・シフトン・アジア局長、中国と北朝鮮について詳しいジャーナリストのゴードン・チャン氏、米クインシー研究所のジェシカ・リー上級研究員が証人として出席する。ビラ禁止法だけでなく、北朝鮮の人権問題をめぐる韓国政府の対応全般が幅広く議論されるようだ。

 トム・ラントス人権委員会は公聴会開催の背景について「韓国における表現の自由を含む特定の市民的・政治的権利を制限するとみられる一部の動きに対して、強い懸念が浮上している」「一部からは『対北ビラ禁止法は北朝鮮の人権問題改善の努力に対する障害になりかねない』とする懸念の声も出ている」などと説明した。トム・ラントス人権委員会は先日、今回の公聴会でナイジェリア、中国、ハイチ、ホンジュラスなどを取り上げると発表した。対北ビラ禁止法公聴会はいわば韓国がこれらの国々と同じような取り扱いを受けることを意味する。

 韓国政府と与党は「金与正(キム・ヨジョン)下命法」という非難にもかかわらず、対北ビラ禁止法を強行成立させた。この法律は「軍事境界線付近から北朝鮮に向けて拡声器放送やビラ散布などを行った場合、最大で3年以下の懲役あるいは3000万ウォン(約290万円)以下の罰金に処することができる」というものだ。これによって韓国国内はもちろん、米国や自由民主主義陣営全体から「韓国は本当に民主主義国なのか」などの批判が相次いだ。米国務省は「北朝鮮への自由な情報流入を増やすことは米国にとって優先順位が高い」とコメントしており、米議会からは「愚かな法律」「文在寅(ムン・ジェイン)大統領の韓国の動きを懸念」といった指摘も出た。英国や欧州連合(EU)議会、市民団体などからも「対北ビラ禁止法の再検討」を求める声が相次いでいる。

 トム・ラントス人権委員会が今年はじめに公聴会の開催を予告したことを受け、青瓦台(韓国大統領府)と韓国政府はこれを阻止するためのタスクフォースを立ち上げるなど対応に全力を挙げてきた。駐米韓国大使館も米議会や米国政府関係者、主要なシンクタンク、人権団体などに対し「南北関係の特殊性」などの論理で説明に力を入れたという。しかし韓国政府などによるこれら一連の努力にもかかわらず、この日公聴会が正式に決まったことを受け、韓国統一部(省に相当)は「(米議会で開催される)公聴会は議決の権限がないなど、韓国における公聴会とは違って政策研究グループのような性格に近い」とコメントした。

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