▲写真=朝鮮中央テレビのキャプチャー

 北朝鮮ではここ最近「食糧難が深刻」との証言が相次いでいる。今年5月にオミクロン株の感染拡大で中朝国境が再び閉鎖され、これに慢性的な経済難が重なり一部地域では餓死する住民まで出ているという。朝鮮労働党の機関誌「労働新聞」は「共和国非常局面」と報じた。ここからさらに台風など自然災害が重なった場合、餓死者が大量に発生した1990年代末の「苦難の行軍」が再び起こる危機的状況になりかねないとの懸念もあり、これが金正恩(キム・ジョンウン)体制の動揺につながる可能性も排除できない。

 北朝鮮は今年1月に中朝国境の列車運行を再開した。4月に故・金日成(キム・イルソン)主席誕生110年記念行事などを行うためコロナで2年続いた国境封鎖を解除したのだ。これによって中国から食料などが入り北朝鮮の市場では久しぶりに活気を取り戻した。ところが5月に金正恩氏自ら「オミクロン株の感染拡大」を認め、国境を再び封鎖したため食糧難が再び一気に悪化した。ここ2年間に北朝鮮は備蓄米を放出して食糧の不足分を補ってきたが、この備蓄米がなくなりつつある上に国境まで封鎖したため、市場の食料そのものが一気に減ったのだ。北朝鮮の食料価格を調べているデイリーNKによると、北朝鮮の米の価格は5月時点まで1キロ当たり5000ウォン(約520円)前後を維持してきたが、7月に入ると6000ウォン(約620円)ほどにまで上昇したという。北朝鮮の内部事情に詳しい消息筋は「住民は現金を持っているが食料そのものが手に入らないため飢えに苦しんでいる」と伝えた。北朝鮮では先日から中国に列車の運行再開を求めているが、今度は中国側が北朝鮮でのコロナ感染拡大を理由に慎重になっているという。

 季節的な要因も重なっている。新じゃがいもは出ているが、9月末から始まる米の刈り入れまで収穫可能な食料はほぼない。北朝鮮の農業事情に詳しい権泰進(クォン・テジン)GS&J元院長は「小麦や大麦の作付面積は増えているが、今年は梅雨の時期に生産量が逆に例年よりも少なくなったと推定している」との見方を示した。上記の消息筋によると、住民は現在、新じゃがいもに山菜などの代替食料を交ぜて食べており、江原道や開城、両江道など一部地域では飢え死にした人が出たとも伝えられているという。国境地域の恵山ではコロナで隔離されたある家族が1週間にわたり食料の供給が受けられず、全員死亡したという。別の消息筋によると、平城地域では食料を買うため自分の娘を金持ちの家に売ったケースもあるようだ。

 1990年代の「苦難の行軍」当時は配給の再開だけを信じて100万人以上が餓死した。しかし2000年代以降は住民の多くが市場で食料を購入するようになり、深刻な食糧難は起こらなかった。配給は平壌市内や軍人など特別な地域や階層だけが受けている。ところが北朝鮮の最近の食糧難は配給システムが原因ではなく市場が問題という点でこれまで以上に深刻と考えられている。北朝鮮で農畜産関連の政府職員だったグッドファーマーズ研究所のチョ・チュンヒ所長は「輸入がストップした状態が長期化しているため市場では在庫そのものがなくなった」「食用油の場合、コロナ以前だと8000ウォン(約830円)だったのが今は3万2000ウォン(約3320円)にまで上がった。ただそれでも現物そのものがない」と現地の状況を伝えた。

 国境地域の消息筋によると、中朝間の密貿易で持ち込まれる食料や物資も大きく減り、市場の運営そのものが難しくなったという。市場がストップすれば一般住民の生存が難しくなる。ある北朝鮮支援団体の代表は「北朝鮮関連の実業家や米国での話もみんな同じだ」とした上で「苦難の行軍がまた始まった。北朝鮮の学者たちも『自分の人生で苦難の行軍を2回も経験するとは』と嘆いている」と伝えた。中国は最近、年末に予定されている共産党大会に向け国境での検疫を強化しているため、北朝鮮の食糧難は今後も悪化する見通しだ。国連食糧農業機関(FAO)は先日公表した報告書で「直ちに食糧支援が必要な44カ国」に北朝鮮も含めた。

 北朝鮮当局も最近の状況を深刻に受け止めている。今月に入って北朝鮮の労働新聞は「共和国の行路で今日のように非常に厳しい局面はなかった」と報じた。ユ・ソンオク元国家安保戦略研究院長は「北朝鮮は体制の動揺を防ぐため党幹部と住民への監視を強めている」として「金正恩の偶像化は一層厳しく進められているが、これも食糧難などで内部の不安が高まっていることを逆に証明している」と指摘した。

キム・ミョンソン記者

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