世界屈指の億万長者の一人でマイクロソフト社の共同創設者であるビル・ゲイツ氏(68)が、小児性犯罪者でヘッジファンドを運用していた投資家の故ジェフリー・エプスタイン元被告から「私とビジネスで協力しなければ、不倫の事実を公開する」と脅迫されていたことが分かった。エプスタイン氏は刑務所に服役していた2018年に自ら命を絶った。

 米ウォールストリート・ジャーナルによると、ゲイツ氏は2010年ごろ、当時20代だったロシア人女性ミラ・アントノワ氏と出会い、数年にわたり関係を続けていたという。アントノワ氏はロシアで大学を卒業し、ニューヨークやカリフォルニアなどでトランプゲームのブリッジの選手として活動していた。ブリッジは欧州のトランプゲームで、ゲイツ氏もよく楽しんでいたが、その時にアントノワ氏と知り合ったという。当時アントノワ氏はブリッジを宣伝するユーチューブ動画で大学時代にゲイツ氏と対戦した時の写真を公開し、「ゲイツ氏に勝てなかったが、彼を足蹴にしようとした」と親しさを誇示するコメントも残した。

 アントノワ氏は2013年にブリッジを広めるベンチャービジネスを構想していたところ、ゲイツ氏のスタッフを通じてエプスタイン氏を紹介された。億万長者だったエプスタイン氏にアントノワ氏は50万ドル(現在のレートで約7000万円)の投資を求めたが拒否され、その後「ソフトウエアのプログラマーになりたい」と言ってコーディングの勉強に必要な資金をエプスタイン氏から受け取った。

 当時エプスタイン氏は2008年に小児性犯罪で13カ月服役した後で、名誉回復のために政財界や学界との人脈づくりに力を入れていた。エプスタイン氏はメインバンクのJPモルガンを通じて数十億ドル(数千億円)規模の慈善団体を設立し、自らが巨額の手数料を受け取るビジネスモデルを構想していた。その際すでに親しかったゲイツ氏に寄付を求めたが拒否された。

 するとエプスタイン氏は自らも一時「ノーベル賞が受賞できるように後押しする」と良好な関係を維持していたゲイツ氏に対し、突然「私がアントノワに払ったコーディングの学費をあなたが支払え」という電子メールを2017年に送った。学費そのものは少額だったため、このメールは事実上「あなたの不倫の過去を知っているので、いざとなったら暴露する」という脅迫のメッセージだった。ゲイツ氏の代理人はウォールストリート・ジャーナルの取材に「エプスタイン氏は数年前に終わった関係を利用し、ゲイツ氏を自分のビジネスに引っ張り込もうとした」と主張し、二人の間にはいかなる金銭的な取引もなかったと説明した。ゲイツ氏はエプスタイン氏との関係が明らかになった2021年「彼と親しかったことは大きな間違いだった」と謝罪した。

 エプスタイン氏がゲイツ氏とアントノワ氏との関係をいつ知ったかは定かではない。ただしニューヨーク・タイムズによると、エプスタイン氏は自らが性的虐待をしていた10代の少女数百人に有力者の性的接待をさせ、これを弱みとして彼らを自らのイメージ宣伝や投資の誘致に利用してきた。2019年に死亡する前にエプスタイン氏は「私が持っているリストを公開すれば、世の中がひっくり返るだろう」とまで語っていた。アントノワ氏はエプスタイン氏が「管理」していた少女ではなかったが、ゲイツ氏にとっては打撃になるとエプスタイン氏は考えた。ウォールストリート・ジャーナルは「エプスタインは有力者を手厚く接待したが、気に食わなくなるとどれほど態度が変わるかを示す事例だ」と伝えた。

 ゲイツ氏は2021年、それまでビジネスのパートナーでもあったメリンダ・ゲイツ氏と離婚し、世の中を驚かせたが、メリンダ氏は夫がエプスタイン氏と交流していた事実が公表されると激怒し、離婚を決意したという。メリンダ氏は昨年CBSテレビとのインタビューで「エプスタインがどんな人間か知るため1回だけ会ったことがある」「(マンハッタンの邸宅の)ドアを開けた瞬間から後悔した。彼はぞっとする人間だった。被害を受けた幼い女性たちのことを考えると、胸が張り裂けそうだ」と述べた。「ゲイツ氏が社内の女性社員や通訳などと不適切な関係を持った疑惑が離婚の理由か」との質問にメリンダ氏は即答を避け「結婚生活の信頼が崩れたので離婚した。その後も精神的な苦痛でたくさん泣いた」と語った。

ニューヨーク=鄭始幸(チョン・シヘン)特派員

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