▲イラスト=キム・ソンギュ

 アパレル業を営むAさん(30)は4月初め、言語交換アプリで香港在住の女性とチャットを交わした。女性は「彼氏と別れて大変だ」とか「私もアパレル事業をやってみたいが、資金がない」などと話し、Aさんと親しくなった。女性はAさんにオンラインゲーム用アイテムの売買サイトを教え、「ここで一緒にお金を稼ごう」と持ちかけた。サイト指定の口座番号に送金すれば、アイテム売買で収益を上げられるということだった。Aさんは「最初は女性が20万ウォン(約2万2500円)を入金してくれたし、チャットで親しくなったと思ったので本当だと信じた。数回にわたって約3000万ウォンを入金したにもかかわらず、しきりにもっと送金しろというので、詐欺に遭ったと思い、警察に通報した」と話した。

■ロマンス詐欺被害、2カ月で185件

 恋愛を偽装した詐欺である「ロマンス詐欺」が相次いでいる。ソーシャルメディア(SNS)で異性に近づき、好感を抱かせた後、金銭を巻き上げる手口だ。美男美女の人物をプロフィール写真に使い、「あなたが気に入った」といった言葉で相手を魅了するのが特徴だ。

 孤独な中高年層は容易にターゲットになるが、ソーシャルメディアの活用に慣れた20、30代も例外ではない。会社員の女性Lさん(29)は4月15日、デートアプリで会った男性に約1800万ウォンをだまし取られた。Lさんは「プロフィール写真はハンサムな若い男性で、『食事はしたか』などと日常的なやりとりも多く、疑う材料がなかった」と振り返った。

 こうした犯罪の増加を受け、韓国警察庁は今年2月からロマンス詐欺犯罪という項目を新たに設け、統計を発表し始めた。それまではサイバー詐欺の「その他」の項目に含まれていたが、そこからロマンス詐欺だけを抽出した。今年2月から3月までの2カ月間に警察が受理したロマンス詐欺被害は185件で、被害額は188億ウォンに達した。

 被害に遭った事実が恥ずかしくて警察に届けを出さずに泣き寝入りするケースも多い。カカオトークのオープンチャットで出会った人物に詐欺にあった40代女性Cさんもその一人だ。離婚を準備していたCさんは、弁護士を名乗る男性と毎日連絡し、写真などをやりとりした。

 C氏は男性の推薦に従い、株式投資をしていたが、最後には約1億ウォンを男性に送金したという。その後、男性と連絡が途絶えた。Cさんは「連絡が途切れて詐欺だと感じた。恥ずかしくて子どもや知人にも言えずつらい」と話した。

■銀行口座の出金停止は対象外

 電話詐欺のように被害拡大を防ぐ最低限の対処方法が整っていないことも問題だ。電話詐欺ならば、被害者は詐欺犯の口座を凍結する「口座出入金停止制度」を活用できる。現行の通信詐欺被害還付法では、電話詐欺の被害者が金融機関に口座への出入金禁止を要請すれば、金融機関は直ちに応じなければならない。しかし、ロマンス詐欺は制度の適用対象外だ。銀行はロマンス詐欺は被害者ではなく警察が要請した場合に限り、出入金停止に応じている。

 専門家は新手の犯罪に合わせ、制度を補完すべきだと指摘する。 2020年にロマンス詐欺被害について、速やかに口座からの出金停止などの措置を取る「多重詐欺犯罪防止法」が提案されたが、まだ国会で成立していない。「制度の対象を拡大する場合、私的な恨みなどで他人の口座を詐欺口座だと主張し、出金停止を要請するケースが出てくる副作用が考えられる」という反論の壁を越えられなかった結果だ。

ハン・イェナ記者

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