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中国研究者ら「中国の主力駆逐艦、米ステルス・ミサイルにお手上げ」 南シナ海有事をウォーゲームで検証
中国が誇る排水量1万1000トン級の055型駆逐艦は米国の長距離対艦ミサイル(AGM158C LRASM)に対して無力で、一方的にやられかねない-とする中国内部でのウォーゲームの結果が公開されました。電子攻撃(EA/ECM)によってレーダーをかく乱されても、赤外線追跡システムを利用して駆逐艦を精密打撃する、という内容でした。香港の英字紙「サウスチャイナ・モーニングポスト(SCMP)」は1月3日、中国国内の学術誌に掲載された論文を引用しつつ、このように報じました。
【写真】AGM158C LRASMをテスト発射する米戦略爆撃機B1B「ランサー」
055型は、韓国の駆逐艦「正祖大王」としばしば比較される中国の新しい駆逐艦で、中国空母機動部隊の「護衛武士」として通っています。サイズは正祖大王(8200トン)や米国のアーレイ・バーク級イージス駆逐艦(9800トン)をはるかに上回ります。一方、米海軍・空軍が運用するLRASMは、レーダーやEAを避けて敵艦を精密打撃するステルス巡航ミサイル。どちらとも、台湾海峡での衝突時に米中両国が動員するであろう主力兵器です。
中国内部でのウォーゲームの結果は、これまで何度か公開されたことがありますが、自国兵器の先端性能や攻撃力をアピールするケースが大部分でした。今回は「中国の主力駆逐艦が米国の先端対艦ミサイルにやられかねない」という内容で、この結果に当惑する反応が中国内部からも出ています。
■華北コンピューター技術研、学術誌に論文を掲載
今回のウォーゲームの結果を盛り込んだ論文は、昨年11月29日に中国の学術誌『指揮統制とシミュレーション』に掲載されたものだといいます。人民解放軍にウォーゲーム用シミュレーションプログラムを納品している国有企業傘下の華北コンピューター技術研究所の、ワン・テンシャオ研究員率いるチームが論文を書きました。
研究チームは、米国と中国の空母機動部隊が台湾南東のプラタス島(東沙島)付近の海域でぶつかる状況を想定しました。南シナ海の北東で、台湾南西部に属する海域です。
米空母機動部隊は戦闘機や駆逐艦など複数のプラットフォームから中国の大型駆逐艦を狙って10発のLRASMを発射しました。高高度を飛行したミサイルは、中国の空母機動部隊に接近すると高度を14メートルまで落としてレーダーを回避します。しかし10キロまで近接したところで中国軍のEAを受けてレーダーがきちんと作動しなくなりました。それでもLRASMは熱画像カメラで標的を追跡し、巡航を続けました。目標に迫ってからはハイスピードで高度を上げ、急上昇して打撃地点を設定し、ダイビングするように落下して中国の駆逐艦をたたいたといいます。
■AIベースのステルス巡航ミサイル
防衛関連企業のロッキード・マーチンが開発したLRASMは、米空軍の空対地ミサイルAGM158 JASSMを空対艦ミサイルに改造したものです。人工知能ソフトウエアをベースに、レーダーと慣性航法装置(INS)、赤外線イメージセンサーなどを積み、敵のレーダー網を避けつつ最適なルートで巡航するといいます。複数発射した場合にはミサイル同士でデータを共有し、攻撃の効率を高める機能もあるそうです。
このミサイルの具体的な諸元や作動方式などは機密に分類されていますが、中国の研究チームは、公開された情報を中心にこのミサイルの諸元と作動方式を把握し、シミュレーションを進めた-とSCMP紙は伝えました。同紙は「研究チームが厳格な事実主義を基にシミュレーションを進め、軍事的な衝突の状況において米国の強力な攻撃兵器に効果的な対応をするための手段と戦術を開発することが目的」だと記しました。
中国のソーシャルメディアでは、今回のシミュレーションは米国に有利な方向で状況設定したのではないか、という不満の声が上がっています。駆逐艦が保有する対空ミサイルや近接防御システム(CIWS)、開発段階にあるレーザー砲などを全く稼働させていないと設定した、というのです。しかしこうした対応手段を稼働させても、低高度を飛ぶステルス巡航ミサイルを迎撃するのは容易ではないとのことです。
■CSIS「LRASMの在庫を増やすべき」
LRASMは、米国のシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」の台湾侵攻シミュレーションでも常連のように登場します。B1B戦略爆撃機がこのミサイルを多数搭載し、発射すれば、台湾海峡を渡る中国海軍の艦隊に大打撃を与えることができるのです。CSISは米軍に、現在は400発水準となっているこのミサイルの在庫を大幅に増やすべきだとも勧告しました。B1Bは、1機で最大24発のLRASMを搭載できるといいます。
このミサイルは巡航速度がマッハ0.7-0.8程度で、有効射程は370キロ。実際には550キロ程度まで打撃可能といいます。極超音速対艦弾道ミサイルより低速ですが、専門家らは、だからこそ、より効率的な兵器だとみています。極超音速ミサイルは、高速ではあるものの特有のプラズマ波などによってセンサーに捕捉されやすく、むしろ対応が容易なのです。
■米第7艦隊「AIを組み込んだ無人機・無人艇も配備」
米国は、2027年に中国の台湾侵攻が現実になるかもしれないという想定の下、しっかりと対応戦略を具体化している雰囲気です。
西太平洋を担当する米海軍第7艦隊のフレッド・ケイチャー司令官は今年1月10日、産経新聞のインタビューで「AIを組み込んだ無人機や無人艇などの新たな戦力が今年8月までに第7艦隊に導入される」と語りました。2023年に、それぞれ数千基に達する無人機・無人艇を大量生産する「レプリケーター(Replicator、複製者)プロジェクト」をスタートさせました。自律運航可能な無人機・無人艇を大量に複製して中国の戦闘機・艦艇の物量攻勢に対応するというわけです。
崔有植(チェ・ユシク)記者