社説
むやみに「内乱ほう助」容疑を適用するな…特別検察官の暴走に待ったをかけた司法【8月29日付社説】 韓悳洙前首相の拘束令状棄却
裁判所が韓悳洙(ハン・ドクス)前首相に対する拘束令状請求を棄却したのは、常識の一線を越えた特別検察官(特検)捜査に「待った」をかけたという点で意味がある。特検が適用した韓悳洙前首相の容疑の核心は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領の非常戒厳宣布を助けたという「内乱首謀ほう助」だ。首相として積極的に阻止しなかった行為そのものをほう助と見なしたもので、令状が発行されれば特検の暴走を防げないだろうという懸念があった。
多くの韓国国民が見た通り、昨年12月3日の非常戒厳宣布は綿密な準備もないまま発生した事件だ。当時、大統領室に呼び出されたほとんどの国務委員(閣僚)が状況をきちんと認識することができていなかった。韓悳洙前首相もそうだったはずだ。今までに明らかになっている非常戒厳宣布時の状況を見れば、韓悳洙前首相は「消極的過ぎた」と批判されても仕方がない。だが、これが犯罪かどうかは別の問題だ。
憲法裁判所は今年3月、韓悳洙前首相の弾劾訴追案を棄却した際、「前首相は非常戒厳宣布に積極的に関与しなかった」と判断した。憲法裁判所の判断を覆すには、明確な証拠を示さなければならない。ところが特検は、戒厳宣布直前の韓悳洙前首相の国務会議(閣議)招集建議を「戒厳の合法的外観を整えるためのほう助行為だ」と主張するだけで、これを裏付ける新たな発言や証言・証拠を提示できなかった。
内乱罪は最高で死刑もあり得る重大な犯罪だ。そのため、刑法では首謀・謀議参加・指揮などの「重要任務従事者」や、単純暴動などの「行為者」といった類型を細かく列挙し、法定刑を規定している。このような犯罪であればあるほど、どの犯罪にも適用できるほう助容疑に拡大する際には慎重でなければならない。1979年に発生した粛軍クーデターの裁判でも内乱ほう助罪で有罪になったケースはない。特検は「韓悳洙前首相に対して『内乱重要任務従事者』容疑の適用が困難になると、無理やり『ほう助』容疑を適用した」との批判を避けられない。
韓悳洙前首相は大統領権限代行を務めていた時、憲法裁判官の任命問題などで現政権の与党と鋭く対立し、弾劾訴追までされた。裁判所が内乱ほう助捜査の道を開いていたら、韓悳洙前首相のように現政権と確執があった大統領室や政府官僚はもちろん、非常戒厳解除表決を欠席した国民の力所属議員のほとんどが特検の恣意(しい)的司法処理の対象になる可能性があった。捜査の成果のために無理やり法を適用すれば、「政治特検」の汚名を免れることはできないだろう。