2010年春、メキシコ湾の海底から石油を掘り出していた最先端の石油掘削施設「ディップウォーター・ホライズン」において、作業中の不手際によりパイプから泥が流れ出し、直後に油とガスが逆流してこれに引火し爆発が起こった。いわゆる「メキシコ湾原油流出事故」だ。油田の圧力の測定に誤りがあったのが原因だったようだ。現場では火の手が上がると鉄塔が崩壊し、140人以上の作業員が逃げ出した。その際、誰かがパイプの途中を切って原油の流出を止めねばならなくなったため、ブリッジにいた女性職員がそのスイッチを押そうとすると、現場監督が「おまえにその権限はない」と怒鳴ったという。

 この事故を描いた映画は、今もどちらが正しかったのかを問い掛けている。パイプの切断と縫合の決定が下せるのは船長だけだ。マニュアルとはそういうものだ。影響で決定は遅れ、数カ月後には2億ガロン(約7.6億リットル)の原油が海を覆い尽くした。2009年冬にはニューヨークで離陸したばかりの旅客機のエンジンがいわゆるバードストライク(鳥との衝突)でストップした。パイロットはハドソン川に緊急着陸した。犠牲者は出なかった。誰もが奇跡と呼んだ。しかし調査チームはこのパイロットに対し「空港に戻れたはずだ。乗客を危険な目に遭わせてなぜ川に着陸したのか」と責め立てた。

 22日朝、ソウル地下鉄2号線で火災が発生した。2両目の下段部から炎と煙が吹き出してきた。9両編成のこの電車は駅に入ろうとしていたところだった。運転士は車内放送で「安全な列車内に待機してください」と呼び掛けた。その後、運転士は管制センターから指示を受け、乗客にすぐ外に避難するよう指示した。緊急停止から避難を指示するまで3分かかった。ところが煙を目にした乗客たちはすでに手動でドアを開け、列車の外に避難していた。運転士が正しかったのか、あるいは乗客の行動が正しかったのだろうか。

 乗客は「火が出ればまず避難すべきではないのか」と抗議した。これに対してソウル・メトロは「状況が分からないまま避難すればもっと危険だ。運転士はマニュアル通り対応した」と反論した。旅客船「セウォル号」沈没事故のトラウマだろうか。セウォル号では船長が乗客に船内にとどまるよう指示したため、犠牲者が拡大した。日本にも「津波トラウマ」がある。2011年の東日本巨大地震当時、ある小学校の教師と児童80人が津波に巻き込まれ犠牲になった。近くの裏山に避難する時間は十分にあったが、児童の数をチェックし避難場所について検討しているうちに幼い命が津波にのみ込まれてしまったのだ。

 日本の「防災白書(2016年度版)」は救助には3段階があると説明している。まず自分の命を自分で守り、次に隣同士で助け合い、その上で救助隊の助けを待つというものだ。つまりマニュアルは必要だがマニュアルを無条件に信じるわけにもいかないということだ。われわれは船長も運転士も信じられなくなったため、そもそもマニュアル自体が意味をなさなくなった。ただ本能に従い各自で自分を守ることが最善と考えるに至ったのだ。そう考えるともし地下鉄火災のレベルではなく、戦争といったより大きな混乱に巻き込まれたとき、韓国軍統帥権者の指示を国民は信じてその通り従うだろうか。

ホーム TOP