▲イラスト=李撤元(イ・チョルウォン)

 動画投稿サイト「ユーチューブ」上で数十万人のフォロワーを有するある中国のチャンネルが最近、「韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領はストライキする研修医らを『辞職するのであれば軍隊に行け』と脅迫し、医師らがおびえている」という内容を含むコンテンツを掲載した。このチャンネルは「韓国人が入隊を拒否する理由は新兵いじめ文化のせいで、多くの新兵が自殺を選んでいる。むしろ監獄暮らしの方がましという程」とも主張した。大統領が行っていない発言を、まるで直接言ったことのように歪曲(わいきょく)し、韓国の兵営文化の否定的な一部分を誇張したのだ。

 韓国の4・10総選挙を前に、一部の中国メディアや中国のソーシャルメディアのインフルエンサーらが、医療スト問題に関連して尹錫悦政権に否定的なコンテンツや記事などを組織的に生産し・波及させていることが17日に判明した。中国国内の韓国人や韓国国内の投票権を持つ中国人などを通して反・尹錫悦の世論を広め、選挙に影響を及ぼそうとする狙いがある-と専門家らはみている。一部の中国人アカウントは、韓国国内のニュース記事で「自由民主主義者は落選させなければならない」「李在明(イ・ジェミョン)が正しい」などのコメント活動を繰り広げていた。中国人らが韓国の選挙運動に乗り出しているわけだ。

 中国メディア「観察者網」は最近、「尹大統領は公権力を総動員して強力対応している。ストに参加した研修医および休学申請した医大生のうち、兵役が終わっていない者は入隊させるという秘蔵のカードを提示した」と伝えた。週刊誌「VISTA看天下」も今月初めに「今後、スト研修医らは軍隊に行くか懲役の宣告を受けるか、どちらかの境遇に陥る可能性が高い」と報じた。スト参加研修医らの場合、辞職処理が行われれば入隊しなければならないが、彼らの辞職処理をどうするかはまだ決まっていない。スト研修医らの医師免許を停止・取り消しするかどうかも決まっていない。

 中国国営の「環球時報」は「韓国政府は少子化の現実を無視したまま無理な医学部定員増を強行し、医師らが大挙して辞表を出すなど、ポピュリズムの弊害が表出している」と、医学部定員拡大政策を「ポピュリズム」とけなした。国営の中国中央テレビで活動してきた経歴を持ち、フォロワー116万人を有するある人物は最近、ミニ・ブログ・サイトのウェイボーに「韓国の医師らはコロナのときも国家防疫など気にせずストをした」という内容の書き込みを行い、関連コンテンツに「韓国社会は封建社会かつ植民地」というコメントを付けた。

 ある中国消息筋は、本紙の取材に対して「複数の中国政府関係者からほぼ同じ時期に、『韓国医療界や市民が困難な状況に直面しているのに大統領だけが利益を得ている』というような主張をする特定のコンテンツをシェアしてこれを波及させよ、という指針を受け取った」と語った。こうした動きの背後には中国政府が存在している可能性があるのだ。別の人物は「中国は地域ごとに専門家・インフルエンサー・国際チームなど数千人からなるコメント部隊を運営していると理解している」と語った。

 実際に、韓国国内メディアのニュース記事にコメントを付ける形で、中国人のコメント世論操作活動も行われている。「売国輪牒(ちょう)」という名前のアカウントは、コメントで尹大統領の名前を「ユンソリョル」と誤記したが、このアカウントは医療スト関連の記事に「検察王朝独裁国家」「自由主義ユンソリョルは問題解決をせず国民同士互いに争わせている」とコメントを付けた。進歩(革新)系最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表の発言に関する記事には「分党スパイ右派らはブルブル」というコメントを付けた。この「売国輪牒」は、嘉泉大学警察安保学科のユン・ミンウ教授の研究チームが昨年末、ビッグデータ分析技法を用いてデータを抽出して見つけ出した中国人と推定されるアカウントおよそ50のうちの一つ、「ナチ民主」が名前を変更したアカウントだ。

 ID「一つの中国」は、韓国国内メディアの記事に「自由民主主義者は無条件に落選させなければならないと思う。国がめちゃくちゃになろうとしている」「(元々は)だいたい400人増員しようとしたが、その程度では『ディオールのバッグ政局』の転換にならない。だから国民と医師を戦わせているのだ」などのコメントを付けた。医学部定員拡大政策を「尹錫悦総督の酒癖」と罵倒し「李在明の言う通り医学部増員は漸進的に行うのがよい」とするコメントも付けた。このアカウントも、組織的世論操作活動を繰り広げる三つの中国人アカウントのうちの一つと目されていた。

 ユン・ミンウ教授は、本紙の電話取材に対して「中国は自分たちの戦略的目標に符合しない政治勢力が選挙で勝つことを望まないので、韓国の現政権を狙った影響力工作をオンライン・オフライン両面で全方位的に展開している」とし「中国内部の否定的世論が、時差を置いて外信や野党、韓国国内の人物を通して拡大再生産されるケースが多いので、適切な対応が必要」と語った。

キム・ミンソ記者

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