1707年(宝永4年)、富士山が爆発して16日間噴火が続き、100キロ離れた江戸の空は火山灰で黒く覆われた。当時、噴火直前に起こった宝栄地震の被害と合わせて、約2万人が犠牲になった。今の富士山が当時の規模で噴火したとしたら、どの程度の被害が発生するのか。日本政府は、噴火を事前に予測し、最大75万人を避難させて人命被害を防ごうと計画している。しかし富士山が突然噴火した場合、人命被害は避けられない。夏場は1日1万人以上の登山客でにぎわい、噴火すれば岩が雨のように降ってくる恐れのある噴石地帯にも、約1万3600人が暮らしている。
人命被害を防ぐ上でも、火山灰は致命的だ。東京にも火山灰が最大10センチ積もるとみられ、これによる停電、交通網のまひ、工場の稼働停止といった事態が発生する。日本政府の予測によると、道路1万4000キロと鉄道1800キロの運行が止まる。「日本の大動脈」といわれる東海道新幹線も止まり、東名高速道路も通行できなくなる。成田・羽田など六つの空港で航空機の離着陸が不可能になり、火山灰によって送電線の切断や変圧器の故障が発生、大規模な停電も発生する。電波障害で通信や放送にも支障が生じる。上水も浄水場も稼働停止が避けられない。コンピューターなど電子機器は静電気で火山灰を吸い込み、誤作動が発生する。
鉱工業の出荷が全国第2位の神奈川県では火山灰が10-30センチ積もり、かなりの期間にわたって工場の稼働が難しくなる。中心的産業地帯の生産停止や物流のまひによって部品の輸出が中断され、世界経済にも打撃を与えかねない。二次的な人命被害も予想される。二酸化硫黄など毒性物質を含む火山灰で、東京の市民も呼吸器疾患に苦しみ、死亡する高齢者が続出しかねない。
日本政府は2004年に、富士山の噴火による被害額を2兆6000億円と推定したが、専門家らは、間接被害を含めると数十兆円に上ると懸念している。東海地震と富士山の噴火が重なった場合、死者は9200人、財産被害は37兆円以上に達することもあり得る。